モノクロ
□03:赤い悪魔
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いつもと変わらず多くの人々で賑わう街中のカフェに、クレントはいた。第二ボタンまで開けたシャツに緩く結んだネクタイという、彼特有の、良く言えば緩い服装で。
「それで? 引き受けてくれるの?」
手を組み、その上に顎を乗せて小首を傾げる目の前の女性。
渡された紙切れをしばらく見つめると、舌に広がった苦いコーヒーの味を噛み締めながらクレントは微笑んだ。
「勿論、俺は綺麗な女の頼みは断りませんから」
「やだ、お世辞言ったって何にも出ないわよ」
嬉しそうにはにかんだその表情を見せる彼女の顔を覗き込むように、身を乗り出した。
「お世辞かどうか、確かめてみますか?」
目の前の女性はその言葉にキョトンとするが、構わず続ける。
「今度仕事抜きで食事にでも行きませんか?」
え、と一瞬声を詰まらせ、俯いた女性の手を握る。
「俺はあなたと……」
そこまで言うと、不意に視界に飛び込んできたのは見慣れた金髪。
その金色の髪の主は店の入り口で腕を組み、壁にもたれ掛かっている。髪によく似た色の隻眼が鋭くこちらを睨みつけているのに気付くと、クレントは小さく咳ばらいをした。
「えー、ですから詳しい事はまた今度」
握っていた紙切れをポケットに突っ込むと、慌ただしく立ち上がった。
一言、依頼はお引き受けします。と付け加えて。
それを見ていた金髪の――リトはくるりと背を向けて歩き出した。
「リトちゃん、待ってくれよ」
小走りでリトに近付くいたクレントは、ふう、とため息を一つ零してリトの隣を歩く。
「あーあ、結構美人だったのに」
クレントは名残惜しそうに後ろを振り返る。
「貴様がそうやって今日も帰って来なさそうだったからわざわざ様子を見に来てやったというのに」
「真面目だねー、そんなんじゃモテないよ、リトちゃん」
頭に乗せられた手をうっとうしそうに払うと、クレントから数歩離れて歩き出した。
「もっとこう、可愛いとか綺麗とか、お前にはそういう感情あんの? 例えば……」
リトに近付き、キョロキョロと辺りを見回す。
「あ、あの銀髪の――」
「馬鹿か、男だろうが」
「違う違う、隣のあの茶髪の人」
クレントが笑顔で話している二人を見つめる。
「可愛いなー、あれ彼氏かな」
「知らん、興味ない」
二人は手を振って別れ、その直後家の中へと入っていく銀髪の青年の姿を目で追う。
「男のくせに髪伸ばすようなチャラチャラした奴はろくな奴じゃないからな、あの女の子は俺が救ってやらねえと」