Knave Heart
□騎士と覚悟
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「……分かったよ。行けばいいんだろ、行けば」
「そう。行けばいいの」
「分かったから離せ」
「ちゃんと送り届けてから離すよ」
どれだけ信用が無いんだ、と苦笑気味に漏らすと、シークは銀色の髪を一度掻き上げた。
「……っと、電話、どこにあるっけ」
「少し歩かないと。僕が行こうか?」
「いや、いい」
行こう、とメニィを振り向けば、納得したかのように一度シークを見てから歩を進めた。
「そういや、最近行ってねぇんじゃねぇの?」
「どこに?」
「墓参り」
たまに主語の無い話を持ち出してくるシークに聞き返せば、探るような目つきでそう返された。
メニィの言う『約束』と同様、絶対に自分を同行させてくれない『墓参り』というのもシークにとってはあまり意図の読めないものだった。どれだけ尋ねても昔お世話になった人の墓参りだ、と、やはり核心のずれた返事しか返って来ないからだ。
「ああ、うん、そうだね、行ってない」
「いいのか?」
「シークの体が健康だったら行くよ」
つまりは、医者に診てもらえと。
「心配性だな、お前」
そういうプログラムか? と口にしようとして、飲み込んだ。
「シークに何かあったら僕は……」
その言葉に、シークはゆっくりと足を止めた。少し後ろを歩くメニィを半身振り返る。
「僕は、何だよ」
「……あ、電話あるよ。掛けてきなよ」
あからさまに話をそらしたメニィを軽く睨みながら、今にも消えそうな蛍光灯に照らされている公衆電話の狭い入り口を開ける。受話器を片手にポケットに手を突っ込んで硬貨を取り出すと電話に入れ、ダイヤルを回した。
「出るといいね」
「多分出ると…………あ、」
耳元で電子音がとぎれとぎれに鳴った後、出た、と小さく零したシークの耳に入ったのは、低い男の声だった。
『――はい、』
「あ。ディック、オレ。シーク」
『……何だこんな夜更けに』
ディックと呼ばれた受話器の向こうの話し相手は相当不機嫌なようだと、メニィは漏れている声からそう感じていた。
『急患の呼び出しかと思ったじゃないか』
「わりいわりい。で、今からそっちに行こうかなって、」
『……何故?』
「いや、あの、ちょっと……」
話している相手は――ディックは医者だ。外見の為に診察を受け付けてくれない病院もあるシークに何かあればそれらの仕事を全て引き受けてくれている。が、その度怪我をするな、体調管理を怠るなと怒鳴られている。