Knave Heart

□騎士と覚悟
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「……それより、この時計」

 メニィに手渡せば、破片が散らばらないようにそっと蓋をし、いつもの様に懐のポケットにしまう。
 ぽつりと切り出した話題にはあまり触れたくなかったが、黙っているままも許せなかった。メニィの顔を見れば、表情と呼べるようなものは浮かべていない。
 もしかすると、これがいつも通りだったのかもしれない。が、シークにはその無表情が引っ掛かる。

「……悪い、オレのせいだよな」
「シークのせいじゃないよ」
「けど、オレを迎えに来たからこうなったんだろ?」
「そうだけど、シークのせいじゃない」

 あっさりと肯定され、それでも頑なに否定されたその責任は、シークの胸の内に引っ掛かる。

「気にしないでよ。もう古かったんだから」

 何でもなさげなその笑顔の裏に寂しさを感じ取るのは、負い目を感じているせいだろうか。
 メニィが懐にいつもあの時計を入れていた事はシークも知っている。勝手な予測だが、機械であるメニィがいつも肌身離さず身につけていたものだ、これも彼の言う『御主人様』に関係しているのだろう。

「ごめん、大事なモンだったんだろ」
「そんなに気にするなんてシークらしくないね。いいの、シークが無事だったんだから」

 その言葉に、シークは面食らった。

 自分の大切にしていた物が無くなろうと無事だったならそれでいいなどと、そんな言葉を掛けられたのは初めてだったからだ。
 罪を犯して、たとえそれが生きる為だとしても、理解など全く得られない。理不尽な暴力に、他とは違う目や髪の色を何度も恨んだ。
 心のどこかで自分に価値は無いと決め付けていたシークにとって、その言葉は体の痛みを忘れさせ、胸の奥を押さえつけるような何かをもたらすものだった。

「……これ、何とかするから」
「人から似たようなの盗むのは駄目だよ」

 機械なりの冗談だったのだろう。シークは少しも笑わなかった。

「ごめんな」
「もういいよ。それより、これからどうするの?」
「……あっ!」

 突然声を荒げたシークはふと弾かれたように顔を上げ――痛む体に顔を歪ませて枕に頭を戻した。

「ここ、離れなきゃ」
「何言ってるの。まだ寝てなきゃ」

 先程までの笑顔はどこへ消えたのだろう、メニィは眉根を寄せてシークを見下ろしている。
 身を案じてくれるのは確かに嬉しいが、シークにとってはその気持ちは時に障害となる。一度駄目だと言えばそれを覆さないメニィに、シークも多少むきになって返す。
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