Knave Heart

□騎士と覚悟
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「治ったよ」
「嘘だ。さっき痛いって顔してた」
「オレが大丈夫っつったら大丈夫だ」
「駄目。シークは無茶ばかりするんだから」
「オレがそうしたいんだ。お前の意見は聞いてない」

 こちらだって譲る訳にはいかない。これから生きて行けるかどうかが懸かっているからだ。メニィには先の事を推測して現在どのように行動すれば良いのかの判断力が欠けている。
 稀に意見が衝突すれば、こんなに面倒な事は無いのだ。
 内心反論しながらのシークの勢いに任せて発した言葉は、黙ったままこちらを見つめるメニィの表情を僅かに曇らせた。
 痛むのを奥歯を噛み締めて堪えながら起き上がり、ほら、と自分が元気であることを証明するかのようにメニィを見た。

 メニィは何も言わなかった。黙っていれば本当に何を考えているのか分からない瞳が一ミリも動くことなくこちらを見つめるのに堪えられなくなったシークは、布団の下に手を突っ込んで封筒を取り出した。

「これ。お前が持ってて」

 しばらく生活には困らないだろうというくらいの厚みのある封筒を差し出せば、またも黙ったまま機械人間はそれを受け取った。

「何か言えよ」
「僕はシークが心配だ」
「……それは分かったから」

 ため息をついて部屋の入り口まで行くと、爪先の擦り減った靴を見つけた。隣には無理に閉じてある、曲がった黒い傘。

「お前一体何したんだよ」
「それでシークを助けてあげたの」
「……そういう皮肉は覚えなくていいんだよ」

 怒っている。
 の、かもしれない。付き合いは長いものの、機械人間のこうした反応が人間の持つような心から生まれる感情であるのか、そういう仕組みであるのかはシークには分からなかった。
 そしてそれを確かめる為に本人に直接聞いたこともあったが、無駄に終わっている。


 外に出れば、辺りは人が住んでいないせいか暗闇に包まれていた。
 さて。これからどうしたものかと軽く伸びをした瞬間、くらりと目の前が歪む。
 次いで端からじわじわと暗くなる視界に思わず目を閉じた。

「シーク、大丈夫?」

 ふと気付けば、メニィに支えられている肩。後ろから聞こえた声に、シークは内心驚きながらも、ああ、とだけ返した。

「やっぱり駄目だ。ちゃんと診てもらおう」
「ただの立ちくらみだよ、大袈裟だな」
「駄目。シークがちゃんと医者に行くって言わないと、この手を離さない」

 力で機械人間に敵わないのは、彼と長い時間を共にしてきたシークがよく知っている。
 掴まれたままの右腕と、こちらを凝視するメニィの青い目を交互に見てから、シークは諦めたように短く息を吐いた。
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