novel

□無邪気
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春の月10日目(晴)

今日は任務はお休みでした。
良い天気だったので、とりあえず散歩に出かけました。



『無邪気』

その日エルムの任務は休みだった。

否、隊長によって強制的に休みにされた。

「どーして5班の中で私だけ任務ないの!?」

「普通は任務がないことを喜ぶものだと思うが」

ショックを受けて直談判にやってきたエルムに、特殊戦闘部隊隊長、ディアは溜息をついた。
その様子を見て、更にエルムは頬を膨らませる。

「お前はここ最近ずっと任務の連続だっただろう?」

「隊長が入れるからじゃん」

「隊員に任務振るのは隊長の仕事だからな。ならば休みを入れてやるのも隊長の仕事だ。そうだろう?」

ディアの反論を受け、エルムは黙って俯いた。

「・・・・・・休みなんかいらないよ」

「うん?」

「何したら良いかわかんないもん・・・」
ぽつり、と零れた言葉に苦笑すると、ディアは目の前の小さな頭に手を乗せた。
のろのろと緩慢な動作でエルムが顔を上げる。

「子供は休みの日は思い切り遊ぶものだ。お前も外で遊んでこい」

数秒の間の後、憂いを帯びていた彼女の瞳が大きく開かれた。

「私子供じゃないし!」

「体も小さいしまだまだ子供だろう。ほら、早く外行け」

「子供扱いするなーっ!隊長のバーカ!」

すっかり元気になったらしいエルムは、そう言いながら部屋を飛び出していった。
そして、その背中を見送りながらディアが優しく笑っていたことを彼女は知らない。


勢いで飛び出したは良いがやることが見つからなかったエルムは、仕方なく街をぶらぶら散歩することにした。
たまに休日があってもたいていは王宮から出ないので、任務で訪れる裏路地以外、彼女は街を知らない。
自分の住む所なのに、街の暗い部分しか知らなかった。


昼間の街は、眩しいくらいの光と、うるさいくらいの音で溢れていた。

「・・・賑やかだ・・・」

初めて見る店や品物に、エルムは休む間もなく目を移らせる。
そのせいで時折躓きながらも、彼女は歩を進めた。

そしてふと、瞳がある露店で止まった。

「・・・わ、綺麗だ」
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