bruyant

□屋上、昼食
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「……ち、違う。オレはもっとこう、おとなしくて優しくて可愛い子かと……」
「可愛いしかあってねぇじゃん」
「うるさい黙れ不良」
「不良じゃねえし」
――昼休みの生徒会室。昨日やってきた嘉穂についての話題で落ち込む嵐山。どうやら自分の予想していた人物像とは対照的な人だったのが原因らしい。
「嵐山! 羽月さん連れてくるよう柏木さん達に言っておいたよ!」
 いつもの笑顔で恭吾が生徒会室の扉を勢いよく開けた。
「……じゃあ行くか」
 持ってきていた弁当を片手に、泰志が嵐山と恭吾を手招きする。
「羽月さん達後から来るって」
 恭吾が携帯電話の画面を見つめながら、先に階段を登っている二人に伝える。立入禁止の立て札を蹴り飛ばして屋上のドアを開けた泰志は早速弁当を広げて座り、恭吾に言う。
「ところでさ、羽月はよくこの時期に転校してきたな」
 現在、まだ入学式を終えて一ヶ月強しか経っていない五月上旬。新しい友達も出来て間もないのにな、と泰志は続けた。
「なんかね、ここの校長と羽月さんのお父さんが親戚らしくて……本人の意思は完璧無視だったらしいよ」
 可哀相だよね、と呟いた恭吾。それに同情するように頷いていた泰志が、フェンス越しに広がる町の景色を見つめている嵐山の隣へ移動しようと、広げた弁当をもって立ち上がった。
「遅れちゃって……すいませっ……!」
 泰志がちょうど屋上入口の前を通りかかったその時だ。段差につまづいた弥生が泰志とぶつかった。
「あーっ!! 俺の昼飯!」
 泰志の弁当が宙を舞い、必死で手を伸ばしたが、無惨にもコンクリートの上に広がった。必死で謝りながら頭を下げる弥生。
「……弥生先輩大丈夫ですか?」
 後ろから顔を覗かせた沙希が小さく呟いた。当の本人とその被害者には、沙希の言葉は耳に入ってはいない。
 無表情で騒ぐ二人を見つめている嘉穂と目が合った嵐山が、苦笑しながら言った。
「な? 天然クラッシャーだろ?」
「……なるほど」
 表情は変えずにそのまま呟いた嘉穂の背中を押しながら、沙希は屋上へ入るようを促した。
「大丈夫だよ琴平君、三秒ルールだから!」
「姫、俺にこれを食べろと?」
 散っていった弁当を片付けながらの恭吾のフォローは泰志が砂のついた卵焼きを見せ付けたことで意味を無くした。
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