モノクロ
□02:裏と表と
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クレントは声のトーンを低くしながら、リトの腰に手を回して手前に引き寄せた。
その瞬間、クレントの喉元に鋭い痛みが走る。
「冗談も程々にしろ、気色悪い。刺すぞ」
突き付けられたフォークとリトの睨みつけてくる左目を交互に見ると、両手を挙げて苦笑した。
「……もう刺さってんだけど」
血がワイシャツにつくのを避けるように、クレントは指で首元を拭う。血のついた指を舐めながらエクスシアを見る。
「見てみろよ、さすが雪の妖精だよな。青い髪も白い肌も、様になってら」
どっかの眼帯君より可愛い、と付け加えるとエクスシアの頭を撫でた。
そのクレントの手は、すぐに弾かれた。
「どうかしたか?」
クレントの手を弾いた目の前の本人のキョロキョロと辺りを見回す視線はいつものような虚ろな目ではなく、睨むように白い眼帯をゆっくりと左にずらすリトを見つめていた。
「……何してくれてんだよ」
初めて、エクスシアと名付けられた少年が言葉を発した。
どこか自信のなさ気な、あの虚ろな面影はどこにもない。
「久しぶりに出て来れたと思ったらこれか。で、お前ら何? 僕を売り飛ばしに来たの?」
唐突に、強気な口調での言葉に、リトとクレントは少しだけ目を見開いた。
リトはそっと眼帯を元の位置に戻す。この強気な少年が話すのは、クレントにしか分からないあの言葉ではないからだ。
「……エクスシアちゃん?」
「ああ、そう呼ばれた事もあったっけ。それで、お兄さん。これ、どういう事だよ」
短くなった前髪を親指と人差し指でつまんで、呆然としているクレントに問い掛ける。
「いや、邪魔そうだったから……」
「何だ、売りたかった訳じゃないのか」
「そっちの方が可愛いぜ?」
「うるさい、僕の勝手だ」
クレントは小さく苦笑した。
黙って二人のやり取りを聞いていたリトが立ち上がり、エクスシアの方を向く。
「言葉、きちんと話せるなら始めからそうしていろ」
「違う。僕は僕であって、僕じゃない」
エクスシアは左手を胸に当て、負けじとリトを見つめる。
「多重人格、そう言ったら早いかな」
初めて見た、と零したクレントを一度横目で見ると、続ける。
「元の体の持ち主が生きる事を拒んだんだよ。毎日毎日人間に傷付けられて、堪えられなくなった。そうして一時的に人間から逃れる為に僕が生まれた。それからは僕が代わりになって虐待から守ってるんだ。だから……許さないよ、この体を傷付けるのは」
「言うじゃないか、何も出来ねえクセに」
嘲笑うかのように笑みを零したリト、少年はリトに掴みかかる。