モノクロ

□02:裏と表と
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「うるさい、お前に何が分かる、人間! あいつはな、お前達人間に何もかもを奪われたんだ! 歩く事も、言葉も、笑う事も、全部……。僕がいなきゃ、何も出来なくなった。そうさせたのは誰だよ、お前達身勝手な人間だろ?」

 少年が振り上げた左腕を、クレントが掴む。

「止めとけ、今手を上げたら殺されるぞ」
「触るな、離せ人間!」
「お前と同じ化け物だから、人間に敵う訳がねえって忠告してるんだ」

 少年は驚いたようにクレントを見る。有無を言わせないその目に、少年はその場で震えだした。

「だって、こいつ……」

 床についた手を握りしめると、大粒の涙が零れ落ちた。

「歩き方も、全てを奪われたと言ったな。体の持ち主が表に出ている時に陰で行動を促していたのはお前、という事か」
「待て、じゃあ俺と会話していた時の昔の言葉は誰が?」
「知るか、それは問い詰めればいいだろう」

 少し間を空けてから、リトは泣きじゃくる少年を指差した。

「クレント、そいつは興味深い。どこかに繋ぐか閉じ込めておけ」

 少年は涙目でリトを睨みつけた。クレントは背を向けたまま振り向きもしないリトと、涙を流して震えながらリトを睨む少年を交互に見つめて肩を竦めた。

「……了解、」

 短く返事をすると、少年を片腕で抱き抱える。

「何だよ、僕をどうする気だよ、離せ!」

 クレントはドアが閉まり、リトの姿が見えなくなったと同時に暴れだした少年をなだめる。

「そうだな……暗闇にでも閉じ込めておこうか?」

 意地悪げににやりと笑ったクレントの表情に、少年は凍り付く。

「冗談だよ、真に受けるなって。俺の部屋に案内する」

 怖じけづいたのか一言も言葉を発しない少年を小脇に抱えたまま、自分の部屋へと足を進める。

「ほら、ここなら大丈夫だから。ベッドも、眠くなったら勝手に使っていい」

 少年はベッドの上に落とされると、すぐさま布団の中に潜り込んだ。

「……寝たら何されるか分からないから、寝ない」
「人聞きの悪い事言わないでくれる?」
「そうだろ? 売り飛ばされるのだって、暴力だって、いつだって突然だ」

 少年は視線を落とす。床を見つめる大きな目を一層際立てている長い睫毛が震えている。
 クレントはテーブルの上のコップに水を汲むと一口、口に含んだ。

「お前に危害を加える事も、ここではない。現にここに来て数週間経ったが今、体に異常はないだろう?」
「けど……」
「不安ならここから出ていけばいい。勿論、外が安全だって保障もしないがな」
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