モノクロ
□03:赤い悪魔
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「女ばかり追っかける貴様が言うな」
「俺のモットーは去るものは追わず、来るものも拒まずだからさ。仕方ないんだよ、この顔だから」
「本当に欲しいものが手に入らないから代わりを作るのか。見苦しい」
リトの吐き捨てるような一言は、核心を突いた一言だった。
「お前に俺の何が分かるんだよ、リトちゃん」
いつもの飄々とした口調。だが、少しばかり震えた声と拳。
「分からないから客観視した意見を言ったまでだ」
「あ、そう」
息を震わせるようにゆっくりと吐くと、先を歩くリトの前に回り込んだ。
くるりとリトを振り返ると、そこで足を止める。
「どうやってもあの人は手に入らない。リトには分かんねえよな、大切だと思えるものを持たねぇお前には」
「……フィーナの事か」
否定も、肯定もしない。ただただ自分を真っ直ぐに見つめてくる瞳にも、その答えは見付からない。
「くだらん、貴様ら化け物がそんなもん抱えてどうする」
クレントの挑発的な言葉を一蹴し、再び歩きだそうと片足を上げたリトの右目を覆っていた眼帯に指先が当たる。
トントンと眼帯を軽く叩くクレントの指先を払い退けると、こちらを見下ろすクレントの笑みに気付いた。
「あれ、使わないんだ。その目」
「貴様の事なんざ興味ない。無駄な体力を浪費したくないしな。これかももっと疲れる奴を相手するというのに……」
ため息をつきながらクレントの横を通り、先を歩くリト。
その後をクレントがついて行くと、リトは路地裏に足を進めた。
「さすがのリトでもあいつは苦手か」
一歩路地裏に足を踏み入れれば、太陽の光は建物に遮断され薄暗い。壁や地面の所々に残る血痕からはこの町の治安の悪さが伺える。
真っ直ぐに歩く小さな背中を見つめながら、クレントは胸ポケットからタバコを取り出した。
くわえたそれに火を点けながら、リトに尋ねる。
「ところで、その『疲れる』変人に何の御用で?」
「『シア』の事でな、」
リトの言う『シア』という人物はエクスシアの事だと理解は出来た。だが、クレントの中に疑問が浮かぶ。
「珍しいな、あだ名まで付けちゃって」
「……別に。あいつにはお似合いだろう?」
そう言うとリトは目の前の古びた木製の戸を開いた。
開いた瞬間、生暖かい空気が頬を掠めた。
「入るぞ」
短く言うと薄暗い空間の中、足を進めていく。クレントが入り口を閉めると辺りは真っ暗になってしまった。