ハリポタ

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夕食の時間、いつもなら大広間にいるはずの時間だが、あたしとリリーは魔法薬学の教室の前にいた。
スラグ・クラブはここで開催されるらしい。


「はぁ…ココナッツプリン……」

「もう、まだ言ってるの?いい加減諦めなさいって。」

「う〜。」


あたしはまだ、今日の夕食に出ると大好物のココナッツプリンに未練を持っていた。
リリーには呆れられたが、何せ滅多に出ないレアなご馳走だったのだ。


「ほら、しゃんとして。そんなんじゃエルバートに笑われちゃうわよ。」

「う!り、リリーずるい!そんなこと言うなんて…!」

「言われたくないならもうプディングのことは忘れなさい。さ、行くわよ。」


まだ後ろ髪を惹かれる思いをしたまま、あたしはリリーの後について教室のドアをくぐった。
しょうがない。きっとまた来月ココナッツプリンは出てくる。
なんならしもべ妖精ちゃんにリクエストしておこう。


(そうだ、パーティにだっておいしい物はたくさんある。)


あたしはそう気を取り直してぐっと顔を上げた。

するとそこはもういつもの魔法薬学の教室とはまるで別世界だった。
机や椅子は取り払われ、天井にはいくつもの淡い灯りのランプが浮かび、大勢の生徒がテーブルに並べられたご馳走の周りで談笑している。
まるで社交界でも見ているようだった。


「おお、ミス・エバンズ!それにミス・マルフォイもお揃いだね!」


あたしがその光景に圧倒されていると、不意に誰かに声をかけられた。
見れば生徒の間を縫って恰幅のよい中年男性がこちらへ近づいてくる。
このパーティー、スラグ・クラブの主催者、スラグホーン先生だ。


「スラグホーン先生、本日はお招きいただいてありがとうございます。」

「はっは、堅苦しい挨拶は抜きにしようミス・エバンズ。それにしてもよくミス・マルフォイを連れてきてくれたね!正直な所、君でも彼女をここに連れてくることは不可能なんじゃないかと思っていたよ。」

「あはは……」


あたしは乾いた愛想笑いで答えた。
この人はこういう所が本当に鋭い。
人間観察がうまいというか、人物像を捉えるのに長けている。
ダンブルドアが人のことを見透かすのだとすれば、この人は見抜いてる感じだ。
本人にはそのつもりが無いみたいだからまた厄介。
色々と秘密のあるあたしは、ダンブルドア先生とは別の意味で誤魔化しの効かないこの先生が少しだけ苦手だった。


(だからリーマスもこの先生の目に留まらないように気を付けてたんだろうな。)


でもあたしはどうやらリーマスほど器用にできなかったらしい。

まぁでも来ちゃったものはしょうがない。
ボロが出ないようになるべく先生から離れていよう。

あたしは話に花を咲かせ始めたリリーとスラグホーン先生から、料理を取りに行くフリをしてそれとなく離れた。

ついでにやっぱりココナッツプリンが無いかも執念深く探した。



******


「今頃リリーとなまえはどんなご馳走を食べているんだろうね。」


自分の皿にココナッツプディングを取り分けながらジェームズが言った。
その隣ではリーマスがジェームズよりもたっぷりと取ったプディングにマンゴーソースをかけている。
シリウスはむすっとしながらチキンを頬張っていた。


「行きたくもないパーティーなんかにわざわざ参加する意味が分かんねえ。アホらしい。」

「はいはいそうだね。」


イラつくシリウスの愚痴を軽く流す友人二人の傍で、ピーターだけがおろおろと何か気の聞いた言葉を探していた。


「シリウスはやっぱり、その…なまえと、つ、付き合いたいと思ってるの?」

「あァ?」


悩んだ末にピーターはあろうことかストレートに地雷を踏み抜いてしまった。
途端にシリウスの表情は不機嫌顔から鬼のような形相に変わり、哀れなピーターを震え上がらせた。


「ひぃっ!ご、ごめんっ!!」

「ほらほらシリウス、ピーターに
当たるのはやめてくれよ。可哀想じゃないか。」

「当たってねーよ。いいか、ワームテール、それとお前らもだプロングスにムーニー。何をとち狂って俺があんなのを好きと思ったか知らねえが、俺はあのちんちくりんを女として見たことなんか一度も無いからな!」

「わぉ、久しぶりに聞いたね。そのちんちくりんって言葉。」


シリウスは茶化すジェームズに憤然とため息をついて、食べ終わったチキンの骨を空いた皿に投げ入れた。
何度否定しても面白おかしく持て囃す友人たちにいい加減うんざりしていた。


(でっち上げてまで人の色恋沙汰に茶々を入れたいのか。)


シリウスは怒っていたが、友人たちはけして悪意から言っているのではなかった。
全てはシリウスがこの機会にマトモな恋愛を知るべきだと思ってのことだ。
……それを見て面白がっているのも、また事実だが。


「じ、じゃあなまえがレイブンクローのエルバートと付き合っても、悲しくない?」

「だからそう言ってんだろ。あいつがどこの誰と付き合おうと知ったこっちゃねーよ。」

「そっか……」


ピーターはその言葉を聞いてホッとしたように口元をほころばせた。


「よかった、僕もエルバートのほうがなまえにとっていい彼氏になると思うから…」

「あ゛?」

「あ、いや!べ、別にシリウスよりエルバートのほうが優しくていい人だとか言うわけじゃなくて……!」

「ピーター、黙った方がいいよ。どう見ても墓穴掘ってるだけだから。」


ジェームズに諭されピーターはしょぼんと黙ったが既に遅く、シリウスは益々むすっとした顔になっていた。
すっかりへそを曲げてしまったようだったが、何を思ったか彼はテーブルの真ん中に堂々と腰を据えている大きなプディング皿に手を伸ばし、取り分け用のスプーンでその白いプディングを豪快に掬うと、近くにあった大きめのカップにそれを入れた。


「あれ?珍しいね、シリウスがそんな甘いの食べるなんて。」

「俺のじゃねーよ。」

「え?」


怪訝な顔をするジェームズをよそに、シリウスは鞄の中からなるべくきれいな羊皮紙を選び、カップを傾けないように包むと、何も言わずに席を立った。


「ちょ、どこ行くんだい?この後レポート手伝ってくれる約束だろ?!」

「ジェームズ。」


シリウスを追おうとしたジェームズをリーマスが止めた。
そしてシリウスはそのまま振り返りもせずに行ってしまった。
ピーターはやはり自分が怒らせてしまったのだと肩を落とし、カバンの中からあるものを取り出して何かを思いながらじっと見つめた。
それはあるクィディッチ選手のフィギュアで、本来なら本物そっくりの動きをするのだが、今はピーターの手の中で大人しくしていた。


「あれ、ピーター。良いもの持ってるじゃないか。」

「うん、もらったんだ。」


ピーターはそう言って人形をジェームズに見せた。
一目で高価だと分かる代物だ。
そんな高いものをくれる人物とは一体誰だろう。
ジェームズの頭に一瞬そんな疑問が浮かんだが、動き出した人形を見るとそんなことはすっかりどうでもよくなってしまった。
きっと親や親戚からの贈り物だろう。
そう自己完結してそれ以上は気にもしなかった。





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