ハリポタ2
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スラグ・クラブの始まる数時間前。
ピーターは一人、せかせかと廊下を歩いていた。
占い学の授業で誤って教授の水晶玉を割ってしまった彼は、罰として教室の掃除を命じられていたのだ。
そして先に行ってしまったジェームズたちに追い付こうと急ぐあまり、彼は書きかけのレポートを落としてしまったことにも気付かなかった。
「君、落としたよ。」
たまたまその時すれ違ったレイブンクローの男子生徒がそれを拾い上げ、ピーターを呼び止めた。
そこでようやく自分の落し物に気付いた彼は慌てて引き返し男子生徒に礼を言ってレポートを受け取った。
「あ、ありがとう。」
「いえ、どういたしまして。…君、よくシリウス・ブラックたちと一緒にいる子だよね?」
「え?」
そう言われてピーターは初めて相手の顔を見た。
レイブンクローのネクタイ、どこかで見た覚えがある顔だ。
「あ、エルバート……」
「僕を知っているの?」
「え、えっと、なまえに告白したんだよね?」
言ってしまってからピーターはしまったと口をつぐんだ。
ごくプライベートなことなのに、関係の無い第三者にまで知られているなんてエルバートには不快だろう。
しかし思いのほか、エルバートは少し困ったように笑うだけだった。
「まいったな、やっぱり君らには知られてるんだね。」
「ごめん、そんなつもりじゃなかったんだけど……」
「いや、気にしないでくれよ。別に知られて困ることじゃないからね。」
そう言ってエルバートは項垂れるピーターの肩をポンと叩いた。
実のところ、なまえに告白したしないに関わらずエルバートは優等生として有名だった。
成績は入学以来常に上位、性別学年問わず誰からも好かれ教授たちからの評判も良い。
加えて父親は魔法省の重役で、まさに非の打ち所の無い生徒。
誰もが彼のことを憧れと羨望のまなざしで見ていた。
(こんなすごい人がなまえに告白するなんて…)
ピーターはなまえがエルバートと親しくなっていくことで、自分も学校の有名人と近しくなっていくような高揚感を覚えた。
「…でもなまえは君の仲間のブラックと仲が良いだろう?付き合っていないとは言っていたけど、正直僕の入る隙なんて無いんじゃないかと思えてきてさ。」
「えっ、諦めちゃうの?」
「僕ばかりが一方的に想っていてもどうにもならないことだからね。仕方ないさ。」
苦笑して肩をすくめるエルバートを、ピーターは気の毒に思った。
2人ともハッキリと恋仲を否定してはいたが、傍目に見ればやはり付き合っているも同然のようにじゃれあってばかりいる。
シリウスとなまえが恋人同士だという噂が流れるのも頷ける。
そう、第3者から見れば。
ピーターは違う。
他人より彼らの傍にいて、よく事情を知っている。
シリウスはともかくなまえにはそんな気が無いということも。
「…仕方ないなんてことないよ、エルバート。あの2人、本当になんでもないんだ。」
気付けばそんな言葉がピーターの口をついて出ていた。
悪気は無かった。
ただ、エルバートの恋が報われないのが可哀想だと思ったのと、なまえがエルバートと付き合うことになれば自分ももっとエルバートと親しくなれるかもしれないというミーハーな気持ちからだった。
「本当に?」
「ああ、本当だよ!」
ピーターの言葉を聞くとエルバートの表情は希望を見出したように明るくなった。
それを見たピーターは更に声を上げた。
あの優等生のエルバートが僕の助言を欲しがっている。
今やピーターの胸の中はそんな高揚感で一杯になっていた。
「シリウスは認めたがらないけどなまえのことが好きなんだ。でも素直にならないからなまえには伝わっていないし、なまえにとってはシリウスはただの友達だ。
エルバートの入る隙は充分にあるよ!」
「へえ………」
ピーターは興奮気味にまくし立てた。
握る拳にもいつの間にか力が篭る。
「…じゃあ僕にもまだチャンスはあるってことかな。」
「もちろん!だから頑張って!僕応援するよ!」
ピーターの言葉にエルバートはにっこりと笑った。
「ありがとうピーター。そうだ、お礼にこれをあげるよ。」
そう言ってエルバートはカバンの中からクィディッチ選手のフィギュアを取り出し、ピーターに渡した。
思わぬ豪華な褒賞にピーターは目を輝かせて喜んだ。
「い、いいの!?こんな高価な物…!」
「ああ、もちろん。僕も親戚からもらった物なんだけど、実は同じ物を持っているんだ。」
「うわぁ…うわぁ!ありがとうエルバート!!」
ピーターの興奮は最高潮に達し、もはや人形を掲げて踊りだしそうなほどだった。
だから彼はエルバートがその時腹の中でどんなことを企んでいるかなんて知る由も無かった。
いや、例え彼が冷静だったとしても察することはできなかっただろう。
今日まで誰も気付かなかったのだ。
優等生の仮面の下に滲むどす黒い狂気に……。
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