ハリポタ2
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「なまえ!!」
身の振り方を考えろ、と忠告を残してリドルは消えた。
直後、乱暴にドアを開ける音と薄暗い部屋を暴く光とともに、シリウスが飛び込んできた。
そこで彼が見たものは気を失って倒れているエルバートと壁際にへたりこむあたしだった。
「………っ!!」
廊下からの明かりに照らし出されたあたしの姿に、シリウスはその顔を怒りに歪めた。
あたしはハッとして、慌ててエルバートに破られたシャツの前を掻き合わせた。
でも、きっとシリウスはもう勘づいただろう。
ここで起こったことを。
シリウスは無言でこちらに来ると自分のローブを脱ぎ、頭からあたしに被らせた。
そしてそのまま何も言わずにあたしに背を向けて、倒れているエルバートの胸ぐらを掴み上半身を引っ張り起こした。
彼が何をする気なのか気付いたあたしは声をあげようとしたが、それは間に合わなかった。
皮膚の下の骨がぶつかり合う鈍い音が部屋に響いた。
「シリウス!」
「医務室行ってこい、なまえ。マダムにその手首のアザ消してもらえ。」
シリウスはこっちを見もせずに、まだ気を失ったままのエルバートを冷たく見下ろしている。
「シ、シリウスは……?」
「俺もあとで行ってやるから。」
そう言ってシリウスは再びエルバートの体を起こし、拳を振り上げた。
あたしは咄嗟にその拳を両手で取った。
「やめて!」
「っ!」
振り下ろされようとしていた拳はすんでの所で止まったが、シリウスはまだエルバートを放さない。
あたしはただこの手がまたエルバートを殴らないように握りしめた。
「なんでだよ!お前こいつに何されたか分かってんのか!?」
「…………!」
ー瞬、エルバートの狂気じみた笑みと冷たい手のひらがフラッシュバックして、あたしは思わずシリウスの手を放してしまいそうになった。
でもやっぱりどんな理由があれ、シリウスが人を殴るのを黙って見過ごすことはできない。
(それに…)
殴る以上のことを、あたしはエルバートにしてしようとした。
あたしは今だ意識を取り戻さないエルバートに目をやった。
次に彼が目を覚ました時に、彼がどの程度記憶を留めているかは分からない。
でも、今夜自分が何をしたかは、きっと確実に忘れてしまっているだろう。
「もう、いいよ……。」
忘れたからといってエルバートのしたことを水に流すことはできない。
彼を責めないことで、許されたいのはあたしのほうだ。
人に向けて死の呪文を使おうとしたのだから。
「なっ…いいわけ……!」
ないだろ、と続くはずだった言葉は誰かが廊下を走ってくる音に遮られた。
「なまえ!」
「ちょ、待ってリリー…君って意外と走るの速…っ」
赤毛をなびかせて最初に飛び込んできたのはリリー、少し後にジェームズとリーマス、そしてかなり遅れてピーターが駆けつけた。
途端に騒がしくなった部屋にシリウスはエルバートへの制裁を諦め、彼の胸ぐらを掴んでいた手を放した。
「エバンズ、こいつ医務室に連れてく。手伝ってくれ。」
リリーはあたしの姿を見るとハッと口元を覆い、すぐに駆け寄ってあたしの肩を抱き支えてくれた。
「リリー…。」
お礼を言おうと思ってリリーの顔を見ると、 彼女の宝石みたいな瞳からは涙がぼろぼろと流れ落ちていた。
リリーは何度か、かける言葉を探すように口を開きかけては、やはり何と言って良いか分からずに口を閉ざした。
その代わりに肩を抱く手にぎゅっと力を込めてくれる。
言葉は無くても、それで十分だった。
あたしは肩にかけられたリリーの手を握った。
頬を涙が一粒滑り、そのあとを追っていくつもの涙が落ちていく。
あたしたちは声も上げないまま、身を寄せ合って泣いた。
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