ハリポタ2

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早いもので、あれからもう数日が過ぎた。

冬の気配が強くなり、テストも終わって生徒たちはクリスマス休暇に向かって皆どこか浮き足立っている。
あたしはと言えば、あの日ダンブルドア先生に言われた通り、残された学園生活をそれなりに楽しんでいた。
最初は、ヘタに猶予があると卿の屋敷に帰るという決意が揺らぐかもとか皆との別れが辛くなるかもとか思っていたけど、案外そんなことはなかった。
むしろ、一日一日が過ぎるごとに心の準備ができていくように感じていた。

もちろん、あんなことがあった後だからすぐに元通りの生活とはいかなかった。
それでもリリーたちがいろいと気をつかってくれたおかげで、なんとかいつもの調子は取り戻した。
夜中たまにふと思い出して眠れなくて、そんな弱っちい自分に嫌気がさすこともあるけれど、概ね元気だ。
今だってこうしてハグリッドの所へと遊びに行こうと、薄く積もった雪をさくさく踏んで禁じられた森へと向かっている。

いや、間違えた。
今日はただ遊びに行くわけじゃない。
ハグリッドに大事な用があるのだ。
あたしは四折りにされた数枚のカタログを握りしめた。
このカタログこそ、あたしが頭を悩ます目下の原因だ。
事の発端は今朝、リリーが興奮気味にあたしを部屋に起こしに来たことから始まった。





「なまえ、なまえ!起きて!大ニュースよ!!」

ノックもせずに部屋に飛び込んできたリリーはまだ夢の中だったあたしを激しく揺さぶった。
激しい振動のなか何事かと寝ぼけ眼を開けると、リリーは間髪入れずに色とりどりのドレスローブの並んだカタログを突きつけた。

「ふはっ?な、なに?」

「ダンスパーティよ!」

「ダンパティ?」

あたしは起き抜けの頭に飛び込んでくるリリーの言葉を繰り返した。

「ダンパティじゃなくてダンスパーティよ!もうなまえったら、寝ぼけてないで起きて、起きて!」

そう言ってリリーは無理矢理あたしをベッドから引きずり出した。
一気に冷たい空気に晒されたあたしはぶるっと身震いしたが、リリーはそんなことお構いなしだ。

「校長先生が急にダンスパーティを開催するって発表したの!クリスマス休暇の前日よ!」

「ダンスパーティって…炎のゴブレットの?」

「え?オムレット?お腹すいたの?いいわ、食堂行きがてら説明してあげるから!」

そう言うや否やリリーはあたしの制服やらローブやらを引っ付かんでぽいぽいとあたしに投げ寄越した。
そして今一つ状況が飲み込めないまま渡された衣類を抱えてぼーっとするあたしを残して「談話室で待ってるからね!」とさっさと行ってしまった。
あたしはしばらく覚醒しきらない頭でぼんやりリリーの出ていった扉を見ていたが、やがて渡された服ごとまだ暖かいベッドに潜り込み、その中で着替えを始めたのだった。



パーティーはドレスローブ着用、特別豪華な料理も出るが3年生以下は原則参加できない、そして必ずパートナーと一緒に出なければならない。
リリーの話を要約すると大体こんな感じだった。
あたしは朝食のパンをかじりながらなんとなくピンとこないダンスパーティーの様子を思い浮かべていた。

「でも何で急にダンスパーティーなんて?」

「さぁ?校長先生もけっこうお茶目なとこあるし、思い付きなんじゃないかしら?」

「ふーん…」

ふと、ダンブルドア先生の言葉が脳裏をよぎった。

学園生活を楽しみなさい。

もしかしたらこれは、去り行くあたしに思い出を作らせようという先生の粋な計らいなのかもしれない。
なんて思うのは自意識過剰だろうか。
本当にただの気紛れかもしれないし。
あたしはリリーに渡されたドレスローブのカタログに目を落とした。
どのドレスも普段の魔法使い達の奇抜な格好からは想像できないほどにオシャレで、リリーみたいな美人が着たらさぞ映えるだろう。

「パートナーといっしょに参加だっけ?リリー、一緒に行こうよ。」

「あら、それはダメよ。」

「え!何で!?」

承諾してくれるものと思っていた誘いをあっけなく断られ、あたしはショックに眉尻を下げた。
もう他の子と約束してしまったんだろうか。
それじゃああたしは一体誰と行けば…

「パートナーは異性じゃなくっちゃ。確かになまえはたまにそこらの男子より頼もしいけど…」

「うん、あたしリリーのこと完璧にエスコートできる自信がある!」

なんなら燕尾服を着たっていい!

「聞き分けのないこと言わないの。こういうのはちゃんと異性のパートナーを見つけて参加するのがマナーよ。なまえ、こういうのは初めてなんでしょう?大丈夫よ、色々教えてあげるわ。」

「リリー…」

リリーはにっこり笑ってカバンから大量のカタログを引っ張り出した。
あたしに渡したの以外にもあんなに持っていたのかと目を丸くする。

「さ、何はともあれまずはドレスを選びましょ!なまえはどんなのが好み?」

そう言って机一杯にカタログを広げるリリーの瞳は今までのどんな時よりも輝いていた。





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