ハリポタ2

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大広間はまさに豪華絢爛という言葉が似つかわしい様相だった。
どこもかしこも魔法のようにきらきらしていて、品の良い音楽が流れ、見たこともないようなご馳走が並んでいる。

「わぁすごい…ここは天国!?」

「やっすい天国だな。」

「これが安かったら高価な天国って何!?」

スラグ・クラブのご馳走もなかなかのものだったが、今日のは今まで見たなかで間違いなく一番だ。
もちろん、ココナッツプリンもある。
あたしは早速取り皿へと手を伸ばしたが、すんでのところでシリウスに止められた。
恨めしそうに振り返れば、シリウスがあきれた顔をしていた。

「お前な、いきなり飯に飛び付いてんなよ。ほんと色気より食い気だな。」

「当たり前でしょ。あたしに色気を求めんな。」

「求めてねーよ。お前に色気求めるくらいならケンタウロスにでも求めた方がまだ望みがある。」

「あー、それは確かに。」

「同意すんなよ。」

シリウスはため息をひとつつくと、あたしの手を自分の腕に掴まらせて歩きだした。

「え、どこ行くの?」

「ダンスパーティーだぞ?まずは踊らなきゃだろ。」

「え、お、踊るって言ったって…!」

あたしは慌てて引き返そうとした。
マクゴナガル先生の特別授業で大まかなステップは教わったけれど、正直に言って全く身に付いてなんていない。
しかしシリウスはそんなことお構い無しにすたすたとダンスフロアへ進んでいく。

すっとシリウスの手が離れたかと思うと、彼
はあたしと向かい合わせに立った。


「大丈夫だ、落ち着けよ。俺がリードする。」

「そ、そんなこと言ったって…」

「始まるぞ。」

そう言った途端、音楽が始まった。
軽快なテンポのワルツ。
シリウスが胸の前に手を当てて一礼したので、あたしも慌てて軽く膝を折った。
差し出された手に自分のを重ねれば慣れた手つきでするりと指を絡められ、もう一方の手があたしの腰を引き寄せた。

「ちょ、近っ!」

「こういうもんだ。黙って任せてろ。ほら、そっちの手ぇ肩に置け。」

あたしは言われるがままにおずおずとシリウスの肩に手を伸ばした。
そしてその手が肩に触れたか触れないかという瞬間、シリウスがステップを踏んだ。

「わっ、わわっ…」

いきなりのことに足がもつれそうになった。
何とかマクゴナガル先生の授業を思い出してシリウスについていこうとするが、そうしようとすればするほど頭の中が真っ白になっていく。

「なまえ。」

パニック状態のあたしの耳にシリウスの声が届いた。

「音楽をよく聞いて、足元は見るな。」

「で、でも足元見ないとこける!」

「いいから、俺だけ見てろ。」

そう言われてあたしはつい足元から目を離してシリウスを見上げた。
するとシリウスの言ったとおり、下を向いていたときよりも体がスムーズに動く。

見慣れたはずの顔がいつもより真面目な表情をしている。
悔しいけれど、やっぱり様になっている。

「き、きざったらしい……」

「黙ってろっつーの。」

あたしは熱くなる顔を誤魔化すように憎まれ口をたたいた。

今日はどうかしている。
シリウスが格好良く見えるなんて。

あたしはちらりとシリウスの顔を見上げてみた。
するとちょうどあたしを見下ろしていたシリウスとバチリと目があって、あたしも彼も慌てて目をそらした。
たまたま相手を見るタイミングが合ってしまったのか、それともシリウスはずっとこっちを見ていたんだろうか。
…まさかね、うん、たまたまだ。

あたしはもう一度、そっとシリウスを見上げた。
シリウスは他の組とぶつからないように気を配っていたので、今度は目は合わなかった。

顔が少し赤く見えるのは照明のせいだろうか。
だとしたら、あたしの顔も赤く見えるのかな。

(うわ、やだ…なんか恥ずかしい…)

意識しまいとすればするほど、顔が熱くなっていくような気がした。

シリウスとこんなに密着するのは初めてと言うわけではない。
二人で透明マントを被ってフィルチの目を逃れたあの日もこのくらいの距離だった。
でも、あの時とは何もかもが違って見える。

絡めた手から伝わるシリウスの温度、ステップに合わせて揺れる前髪、鼓動、息づかいも分かる距離。
そこに今、あたしはいる。

(…………)

表現のしようもない気持ちを抱えながら、あたしたちは永遠とも思える数分間、それきり何も言うことなく視線も交わすことなく、ただお互いを近くに感じていた。



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