ハリポタ2

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「なまえ!ドレスが届いたわよ!」

そう言ってリリーが部屋に飛び込んできたのはダンスパーティー当日の昼だった。
細い両腕に大きな箱を二つ抱えているリリーを見て、あたしは慌てて読んでいた本を放り出しドアを支えて部屋へと招き入れた。

「ありがと…ふぅ、ここに置けばいいかしら?」

「うん、大丈夫。ギリギリだったね、間に合わないかと思った。」

「ふふ、そうね。」

リリーはベッドの上にドレスの入った箱を二つ並べた。

「こっちが私の。それでこっちがなまえのよ!ああ、今夜が楽しみだわ!ねぇちょっと開けてみましょうよ!」

「こんなにはしゃいでるリリー初めて見た。良いパートナーも見つかったしね?」

「なっ、もう!なまえったら!」

少し意地悪く笑ってそう言うとリリーは顔を真っ赤にした。
予想通りジェームズはリリーを誘い、リリーはそれにすんなりと応じた。
少し寂しいけれど、この2人が付き合いだすのも時間の問題だろう。

「それはなまえだって同じでしょう?」

「え?」

「パートナー、シリウスなんでしょう?」

リリーはまだ少し赤い頬を手で覆いながら言った。
仕返しのつもりで言ったんだろうけど、残念ながらあたしには効果はない。

「そうだね、シリウス何気にこういうの上手そうだし。胸を借りるつもりでいけばよさそうだよね。」

「そうじゃなくて…もう!」

リリーはじれったそうに頬を膨らませた。

「さて、ドレスも届いたしあとは夜までヒマだねぇ。とりあえず談話室行こうか?」

あたしはぐぐっと伸びをしながら言った。
パーティーは6時からだから、時間にはかなり余裕がある。
談話室でチェスでもするか、それともハグリッドの小屋に遊びに行こうか。

「何言ってるのなまえ!無駄にできる時間なんて一分も無いわよ!」

夜までの時間をどう過ごそうかと思いを巡らせているあたしに、リリーが憤然と言った。
あまりの剣幕にあたしは面食らって目を白黒させた。
一分も無駄にできないなんて、何か大事な用でもあったっけ?

「パーティーまであと数時間しかないのよ!今からお風呂に入ってメイクして髪をセットして…やらなきゃいけないことが山程あるわ!」

「えええ、そんなの30分あれば良いって…」

「だーめ!そんな手抜きは許さないわ。さ、まずはお風呂に行くわよ!メイクは私に任せて!とびっきり可愛くしてあげるんだから!」

「ぎゃー!人さらいー!」

そしてリリーは鼻息荒く意気込んで、浴室へとあたしを引きずっていった。
これは本当に数時間は拘束されそうだと、リリーに手を引かれながら覚悟した。


******


男子寮ではシリウスたちが各々好きなように過ごしていた。
リーマスは読書、ピーターは自分の荷物をひっくり返してドレスローブの蝶ネクタイを探し、シリウスはベッドの上でごろごろしていて、ジェームズは洗面台の鏡とかれこれ30分もの間にらめっこしている。

「…おい、ジェームズ何してんだ?」

シリウスはジェームズの方向にごろりと転がって言った。

「何って、パーティーに行く準備に決まってるじゃないか。」

ジェームズはシリウスのほうに視線をやることもなく答えた。
寝癖のようにはねた髪をああでもないこうでもないと弄っては、色んな角度から眺めている。

「準備ぃ?おいおいジェームズ、パーティーは何時からか教えてやろうか?」

「午後6時からだろう?当然知っているさそのくらい!」

「じゃあ何でまだ昼前だってのに準備なんか始める必要があるんだよ。何時間前からスタンバイする気だお前は。」

「そりゃあできることなら前日から準備万端の状態でスタンバってたいくらいさ!!でもそんなことしてリリーに、僕のパートナーのリリーに白い目で見られちゃ大変だからね!僕の!パートナーの!リリーに!!」

ジェームズは拳を握って力一杯力説した。

玉砕覚悟でリリーをパートナーに誘い奇跡的にOKを貰えてからというものジェームズはずっと浮き足立っていたが、当日になっていよいよ気持ちを抑えられなくなったようだ。
彼のベッドの脇には今夜着るドレスローブが糸くず一つ着いていない完璧な状態でハンガーに掛けられている。
シリウスは親友の異常なまでの気合の入り方にげんなりしていた。
パーティーまでのあと数時間、このテンションに付き合わなくてはいけないのか。

「いっそ振られたほうが静かで良かったかもな。」

「なっ何てこと言うんだいシリウス!君だってなまえをパートナーにできて嬉しいくせに!」

「ばっ!なっ…んなわけねーだろバカ!!」

「わざわざハグリッドの小屋で2人きりになって何て言って誘ったんだい、このジゴロ!」

「何で知ってんだよお前は!」

シリウスは顔を真っ赤にしてベッドから起き上がった。
シリウスを除く3人は彼がなまえを誘ったあの日、忍びの地図で彼の動向を探り…もとい、見守っていたのだが、どちらにしても大広間でなまえがリリーとパートナーについての話をしていた時に明らかにそわそわしていた彼を見ていればその後の展開なんてたやすく推察できる。

もはや準備だのなんだのはそっちのけで口喧嘩を始めてしまった二人の横で

「ああうるさい。」

リーマスがぼやいた。



*******



外はすっかり暗くなり、ホグワーツ城には灯りが灯されていた。
ただいつもと違うのはその灯りが通常よりも多く灯されていることだ。
テーブルと椅子が取り払われた大広間はクリスマスのオーナメントやキャンドルで飾り付けられ幻想的な光景を作っている。
生徒達はいつもの制服である黒いローブではなく、それぞれの好みのドレスローブを纏い、城内は綺羅綺羅しい雰囲気に包まれていた。

「へ、変じゃないかな…こんなの慣れないから…」

「大丈夫よ、なまえ!すっごくかわいいわ!」

あたしはリリーと一緒に大広間へと向かっていた。
髪も化粧も全部リリーがやってくれて、昼間から始めた準備はついにパーティーの始まる直前まで時間一杯かかってしまった。
リリーは髪の色に合わせた真紅のロングドレス。あたしはシャンパンゴールドの膝丈のドレスを選んだ。
2人で並んで鏡に映った姿を見て、グリフィンドールのカラーねとリリーが笑った。

シリウスたちとは大広間へ続く階段で待ち合わせている。
待ち合わせ場所に近づくに連れて綺麗に着飾った生徒達が増えてきた。
その中で何となく自分が妙に浮いているような気がしてきて、あたしは今すぐにでも
寮に戻りたい衝動に襲われた。

特にリリーは大人っぽいロングドレスを完璧に着こなしていて、女のあたしでもため息が出るくらい見惚れてしまう。
そんなリリーの隣を歩いているとあたしの吹けば飛ぶような自信はますます小さくなっていった。

「しかもパートナーはあのシリウスだし。絶対笑われる。きっとまたちんちくりんって言われる。」

「久しぶりに聞いたわね、その言葉。大丈夫よ!もし万が一そんなこと言ったら、私が蹴り飛ばしてやるわ!」

「リリー!やっぱりあんな眼鏡捨ててあたしのパートナーになって!」

「こらなまえ!僕のパートナーに手を出さないでくれるかい!」

ひしっとリリーに抱きつくと、即座に後ろから引き剥がされた。
見ればそこにはドレスローブに身を包んだジェームズが立っていた。

「え、ジェームズ?」

「やあリリー、待ちきれなくて迎えに来たよ。今夜の君はいつにも増して綺麗だね。僕のパートナーは女神だったかと思ったよ。」

「ふふっ、あなたもいつもよりちょっとだけ素敵に見えるわ。」

「本当かい!?」

「黙っていればね。」

あたしは首根っこを掴んだままのジェームズの手を振り払って言った。

「余計な茶々入れないでくれるかいなまえ。」

「はいはい、そんであたしへの賛辞は?」

「ん?ああ、馬子にも衣装だね。」

「予想通りの反応どーも。」

ジェームズからマトモな感想が聞けるとははなから期待していなかったけれど、本当にコイツはリリーしか見えてないな。
待ち合わせ場所はまだ先だったはずなのにわざわざ迎えに来るなんて。

「まぁそうむくれるなって。君を褒めるのは君のパートナーたる我が友の役目さ。」

「シリウスにお世辞とか期待できなさ過ぎる…。」

「彼は約束どおりの待ち合わせ場所で待ってるから早く行ってやってくれよ。あれでも女生徒からの人気は高いからね。あんなところに一人で置いといたら他のペアを壊しかねないよ。」

あ、そうか。ジェームズが先にここに来てるってことは今シリウスは一人で大広間の前で待ってるのか。
みんな予めパートナーは決めてあるはずだけど、確かにあんなところに一人でいたら声をかけてくる強者が出てくるに違いない。

「もしかしてそれでジェームズ先に来たの?」

「…2人で並んで待ってるのに片方ばっかり声を掛け続けられる身にもなってくれよ。さすがに惨めさ。まぁリリーの美しい姿を一刻も早く見たかったってのが一番の理由な事には変わりないけどね!」

そう言うとジェームズはぐいっとリリーの手を引いた。

「さあ行こうリリー。」

「ええ。なまえ、後でね。」

「うん。」

あたしはひらひらと手を振って腕を組んで歩いていく2人の後姿を見送った。
気付けば回りはそんなペアで溢れている。
あたしも、そこの角を曲がれば階段の下でシリウスが待っている。

「……うん。」

小さく深呼吸をしてあたしは一歩一歩前へ進んだ。
ドキドキと心臓の音が速くなっていく。
履きなれないヒールがカツンカツンと床を鳴らす。
躊躇いがちに角を曲がるとキャンドルの浮かぶエントランスホールにたくさんの人が集まっていて、その煌びやかさにあたしは圧倒された。

「わぁ…」

その中でシリウスはすぐに見つかった。
階段の下で佇む後姿。
少し長めの髪を軽く後ろで結わっている。
あたしは階段を踏み外さないようにゆっくりと下りていった。
半ばまで来た所でふと、シリウスが振り向いた。
シリウスはあたしに気付くと階段を上がってきて、あたしに自らの腕を差し出した。
さすが、エスコートの仕方が板についている。

「…おせーよ。」

「時間通りだもん。」

あたしはシリウスの腕に自分の手を乗せ、階段を下りていった。
シリウスのドレスローブはローブというよりむしろ19世紀のイギリス貴族のような感じだった。
膝ほどまである丈のジャケットからは長い足がすらっと伸びていて、胸元は蝶ネクタイではなく白いスカーフだ。
胸元のポケットに入った白いハンカチも手触りのいい絹の手袋も、会ったら気障ったらしいと笑ってやろうと思っていたけど、そんな気が失せてしまうほどシリウスに似合っていた。

「………」

熱くなっていく顔に気付かれないように、あたしはうつむいたまま大広間へと入っていった。




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