ハリポタ2

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どうにか1曲を踊り終え、あたしたちはダンスフロアから抜け出した。
壁際に置かれた椅子に座れば自然とため息が出る。

「はぁ〜、終わった…!」

「何べんも人の足踏みそうになりやがって。」

シリウスは椅子には座らず壁にもたれて言った。

「結果としては一回も踏まなかったんだから、むしろ誉めてよ。」

「そのピンヒールで踏まれてたらと思うとぞっとするな。さすが俺でも泣くぞ。」

「えっ。」

「何で目輝かしてんだよ。泣かしたいのか、お前は俺を。」

パッと顔を上げるとシリウスに頭を軽くはたかれた。
ちくしょう、いつかホントに泣かせてやる。

「何か飲みものでも取ってくるかな。」

「あたし、マンゴーパインジュース!」

「そんなんあったか?」

「1:1の割合で混ぜてきて。」

「できるかそんな行儀悪い真似。大人しくそこで待ってろ。」

ジュース混ぜるのが行儀悪いなら、普段のお前の行いはどうなんだと言ってやりたかったが、人混みに紛れてシリウスはあっという間に見えなくなった。
あたしは屈んで疲労の溜まった足を軽くマッサージした。
慣れないヒールで慣れないダンス。
さすがにちょっと疲れちゃった。

「やあなまえ、楽しんでるかい?」

頭上からかけられた声に顔を上げてみると、いつの間にかそこにはジェームズがいた。
パートナーのリリーの姿は見えない。

「足がつりそう。」

「ははっ、色気のない答えだね!」

「うるさい眼鏡。リリーは?」

「シリウスをけしかけに行ってる。」

「は?」

カウンターの方へ目をやれば、人混みの向こうに確かに二人の姿が見えた。
何か話しているなと思ったら、急にリリーがシリウスにローキックをかました。

「うわ、痛そ〜。今度は何やらかしたのシリウス…」

「まぁ大体予想はつくけどね。」

リリーは最後に何か捨て台詞をはくと、こっちへ歩いてきた。

「グッジョブ、リリー。」

ジェームズが言った。

「ホントにもう、イライラしちゃうわ。あのヘタレ!」

「なんかあった?」

「なんでもないわ、喝を入れただけよ。」

「シリウスまだうずくまってるけど…」

リリーのローキックはかなりの威力だったようだ。
シリウスは未だふくらはぎを庇ってうずくまり、女性とから心配の声をかけられている。

「ふん、あの程度で。軟弱なんだから。」

「まあまあリリー、機嫌を直しておくれよ。あいつがヘタレなのはいまに始まったことじゃないさ。」

ジェームズが大袈裟に手を振りながら言った。
ホグワーツ始まって以来の女たらしの名を欲しいままにしていたシリウスだが、仲間内ではヘタレと認識されているらしい。
あまりイメージわかないけど。

「気分転換にもう一曲どうだい?」

「そうね、そうするわ。いい?なまえ、あの男がまたヘタレたこと言ったら蹴飛ばしてやるのよ。」

「うん、わかった。」

長いドレスの裾をひらめかせるリリーの蹴りの仕草は明らかに急所を狙うことを示唆していたが、あたしは敢えてそこには触れずダンスフロアへと二人を見送った。
急所狙いの蹴りか…ヒールはいてて不安定だからなぁ、できるかなぁ。

「おい、なんか物騒なこと考えてんじゃねえだろうな。」

「あ、おかえりシリウス。」

リリーたちと入れ違いにシリウスが戻ってきた。
手には飲み物の入ったグラスを2つ持っている。

「ん。」

「ありがとー。…あれ、普通のパイナップルジュースじゃん。」

「だから、んな行儀の悪いことしねーっての。」

「シリウスが行儀どうこう言っても説得力ない。」

「お前なぁ…」

あたしはストローをくわえてズズッとジュースを飲んだ。
疲れた体に冷たい飲み物がしみる。
ダンスフロアに目をやれば、リリーとジェームズが人々の視線を集めながら踊っていた。

「なんか絵になるねえ、あの二人。あたしたちの無様な踊りっぷりとは大違い。」

「おい、ちょっと待て。無様なのはお前だけだ、俺まで一緒にすんな。」

「シリウスだって一回こけかけてたじゃん。」

「ありゃお前がこけそうになったのの巻き添えをくらったんだろ!」

「そうだっけ?」

「お前の頭には記憶を都合よく改竄する魔法でもかかってんのか。」

「かもね。そういやリリーがシリウスにムカついたら蹴ってやれって言ってたかも。」

「…………」

シリウスはげんなりとダンスフロアいるリリーへと目を向けた。
言われたのはムカついたら、じゃなくてヘタレたことを言ったら、だったけど、同じようなもんだろう。
いや、改竄なんかしてませんとも。

「あー…その、あれだな。」

「ん?」

シリウスが手にしたグラスを右や左に持ち換えながらモゴモゴ言った。
忙しなく泳ぐ視線は時折あたしを端に捉えては逸らされる。

「なに?」

「その………だな。」

「え?」

何か言いたいことがあるようだけど、シリウスはただ口を開けては閉じてを繰り返すばかりで何も言ってこない。
促すとやっと何か言葉を発したが、パーティーの喧騒に紛れてよく聞こえなかった。

「に、似合ってんじゃねーの?今日の格好…」

「えっ」

シリウスは目をそらしながら落ち着かない様子でそう言った。
まさかシリウスに似合ってるなんて言われるなんて思ってもいなかったので、あたしは口をあんぐりと開けたまま固まってしまった。

「…なんつー顔してんだよ。」

「いやだって…あまりにも意外だったから。」

「意外ってなんだよ。失礼なやつめ。」

「いやいや、あんた普段の自分の行い振り返ってみなよ。順当な反応だよ。」

あたしはいきなりのことに熱くなった頬を冷まそうと、冷たいグラスを顔に当てた。
まったくシリウスったら、何を言い出すんだか。

「あたしにまでスケコマシスキル発揮しなくていいから。」

「そんなんじゃねーっつーの。」

そんなんじゃなかったら何だって言うんだ。
ツッこもうかと思ったけれど、これ以上この話を広げたらなんか墓穴を掘りそうな気がしたので、あたしはそれきり何も言わなかった。
すると今度は妙に気まずい沈黙が流れた。

「……」

あたしは気まずさを誤魔化すようにずずずっとジュースを飲み干しながら、何か別の話題はないだろうかと考えを巡らせた。
天気…いや、夜だし。ダンス…はもうコリゴリ。
あたしいつもシリウスと何話してたっけ。
だいたい下らない話しかしてないな。
あ、下らない話って何だろう。いざ考えてみると何も思いつかない。
くだらない事、くだらない事…

「…さ、最初にかっぱ巻き作った人っていうのは何考えてたんだろうね。」

「…………は?」

「ごめん、今のナシ。」

「え、ああ。悪い、河童巻きが何か分からねえわ。」

くだらなさ過ぎにも程があった……!
いやでもきゅうりを米で巻く発想に至る心境って何なの。
考えれば考えるほど不思議なんですけど。
そもそもなんであたしシリウスにこんな気ぃ使ってんだろ。
そうだよ相手シリウスなんだから気なんて使う必要ないよね。
そうだそうだ。うん、考えるの止めよう。

「おい、諦めんなよ。」

「ほあっ!?え?何シリウスってば開心術!?」

「分かりやすいんだよお前。考えが全部顔に出てる。」

「OH…」

なんか卿にもそんなこと言われたような気がするな。

「…外の空気でも吸いに行くか?」

「え?あ、い、いいね!そうしよっか!」

この微妙な空気をどうにかしたくて、あたしはシリウスの提案に乗った。
そしてあたしたちは人混みの中を抜けて大広間から2人抜け出した。




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