ハリポタ2

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駅員から重い荷物を受け取り、ふうと一息ついてあたりを見回してみた。
ホームまで迎えに来た家族と生徒たちが、久しぶりの再会を喜びあっている。
微笑ましい光景だけど、今からあたしが再会する人を思うと、少し気が重い。

「なまえ!」

俯きかけたあたしの肩を誰かが後ろから叩いた。

「あ、リリー。」

「荷物受け取ったわね?じゃあ行きましょうか。」

「うん。」

リリーの両親はキングズクロス駅の入り口で待っている。
あたしはそこでリリーと別れた後、ルシウスと合流することになっている。
あたしたちはそれぞれの荷物を持って、マグルの世界へと通じる柵を通り抜けた。
魔法界とはまた違った、慣れ親しんだ喧騒に包まれる。

行き交う人々の間を器用にすり抜けつつ、あたしとリリーは他愛ないおしゃべりをしながら駅の入り口へと進んでいった。


「じゃあここでお別れねなまえ。……寂しいわ。」

「うん、そうだね……」

「手紙書くわ。ちゃんと返事くれなきゃいやよ。」

「もちろん!元気でね、リリー。」

「なまえも!」

そしてあたしたちはハグをして、手を大きく振って別れた。
あたしは両親の元へと駆け寄っていくリリーの背中が人混みに紛れて見えなくなるまで見つめていた。

「元気で…。」

呟いた言葉は喧騒に紛れて消えた。
ちゃりん、とコートのポケットの中で金属音が鳴った。
その微かな音にあたしはその存在を思い出して、そっとポケットの上からそれを撫でた。
これは、もしかしたら来るかも知れないその時まで、放さずに持ってなくちゃいけない。



******



今朝早く、あたしはフォークスが窓を叩く音で目を覚ました。
フォークスは何かメモや手紙を持っていたわけでもなかったが、あたしはそれがダンブルドアからの呼び出しだとすぐに分かった。
あたしはすぐにベッドから起きあがり服を着替えて、誰もいない談話室を抜け寮を出た。
ガーゴイルの像の前まで行けば、像はひとりでにそこを退き、校長室への道を開けた。

「失礼しまーす…」

「おお。早かったのう、なまえ。おはよう。」

ダンブルドア先生はナイトキャップを着けたままの格好であたしを迎え入れた。

「もう発つ準備はできておるかね?」

「はい、先生。おかげさまで。」

荷物の準備も、心の準備もできてる。
今日の夕方には卿の屋敷に着いているのに、不思議と穏やかな気持ちだ。

「ふむ、よろしい。わしも君に渡す物の準備がようやくできたところじゃ。」

「渡す物?」

「なに、困難に立ち向かう若人へのちょっとした選別じゃよ。」

そう言ってダンブルドア先生は丸いテーブルの上に置かれた小箱を指差した。
そう言えば「渡したいものがある」と言われていたっけ。
あたしはそっと小箱を手に取り開いてみた。
中には真鍮の鍵がひとつ入っていた。

「これは…?」

「ポートキーじゃよ。ただし普通のものとは違う、特殊な仕掛けがしてある。」

「特殊な仕掛け?」

ポートキーと言うからにはうかつに触るわけにはいかないだろう。
あたしは鍵を箱から出さないまま、一旦テーブルの上に戻した。

「左様。普通のポートキーは誰でも触れれば作動する。しかしそれは君にだけ、しかも素手で直接触れなければ働くことはないのじゃ。」

「直接素手で?」

「移動先はまさにここ、この校長室にしてある。ハンカチに包んでスカートのポケットにでも入れておくが良かろう。そうしておくだけなら作用せんからな。」

「あ…!」

そこまで言われてやっとあたしは先生の意図を読み取った。
つまり卿の屋敷に戻って、身の危険を感じた時ポケットに手を突っ込んでこのポートキーに触れればすぐホグワーツに戻って来れるというわけだ。

「覚えておきなさい、なまえ。君は困難に向き合うために去っていくが、ここはいつでも君の家じゃよ。」

先生は半月形の眼鏡の奥の瞳を細めて言った。
キラキラ輝くブルーの瞳は早朝の澄んだ空を思わせる。

「危ないと思ったらすぐに帰ってきなさい。…もともと話の通じる相手じゃないんじゃ。」

「あははっ…そうですね。ダメだったら思いつくだけの罵声を浴びせて逃げてきます。」

ダンブルドア先生はにっこり笑って白いハンカチを取り出し、鍵を包んであたしに渡した。
あたしはそれをそっとポケットにしまい、校長室を後にした。




******



リリーと別れるとすぐにルシウスが来た。
一人になるのを待っていたのだろう。

「行きますよ、なまえ様。私の父が迎えに来ているはずです。」

「うん。分かった。」

あたしは名残惜しい気持ちを振り払うように、リリーの去って行ったほうから目を逸らした。
ルシウスの父ってことはアブラクサス…死喰人が迎えにくるのか。
その後は姿くらましでもして屋敷まで行くのだろうか。

「このあたりで…、……!?」

父の姿を探していたルシウスが何かを見つけて息を詰まらせた。
何事かと思ってその視線の先を探せば、明らかに周囲とは空気が違う全身黒尽くめの男が一人、こっちをまっすぐ捉えて立っていた。

「ありゃ…まさか直々にお出迎えなんてね。」

卿だ。

まあなんて、相変わらず怖い顔。
勝手に出てった事、勝手に戻ってくるなんて言い出したこと、その他諸々気に食わないのだろう。
あたしが気付いたことに気づいた卿は大またでこちらへ近づいてきた。
ルシウスはまさか主君がこんな所まで来るとは思っておらず、予測外の出来事に焦って取り乱している。

あたしも向かってくる卿のほうへと一歩踏み出した。
いや、踏み出したはずだった。
一瞬にして全身から力が抜け、あたしの体は電池の切れたおもちゃのように倒れていく。

「なまえ様!」

回転する世界の中に卿の走る姿が見えた気がした。

ああもう、そんな急に走っちゃ腰やられるよ。年なんだから。


あたしの意識はそこで途絶えた。




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