ハリポタ2

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「なまえ様!」

ルシウスが倒れたなまえの肩を揺さぶった。
しかしなまえは一切の反応を返さない。
ぐったりと力なく横たわる体は見る見るうちに冷えていく。

「どけ。」

ヴォルデモートは素早くルシウスを押しのけ、なまえの首筋に触れた。
脈が弱い。
魔力切れだろうが、何かが違うと感じるのは何故だ。
とにかくもヴォルデモートは魔力を供給すべくなまえの手を取った。
それでもなまえはピクリとも動かない。

「屋敷に戻るぞ。お前は荷物を。」

「し、しかしここでは…」

マグルの目が、と言い終わる前にヴォルデモートはなまえを連れて姿くらましをしてしまった。
状況を見守っていた数人のマグルがどよめく。
今すぐに自分も姿くらまししなければ、状況は余計に面倒なことになる。
ルシウスはやむを得ず、残されたなまえの荷物を引っつかんでその場で自分も姿くらましした。




屋敷についたヴォルデモートはすぐになまえを抱えたまま自室へ向かった。

「どういうことだ。魔力の供給をしていなかったのか。」

「まさか。昨日したばかりさ。」

なまえのショルダーバッグに入っていた日記からリドルが現れた。

「魔力が切れるはずがない。切れたとしてもこれだけ触れていればもうとっくに意識が戻ってるはずだよ。」

「……」

ヴォルデモートは険しい表情をしながら自室のベッドになまえを横たえた。
微かに上下する胸がまだ呼吸していることを示しているが、それもかなり弱々しい。

「魔力でないとすれば…切れたのは光粒子のほうか…?」

「光粒子?」

聞きなれない単語にリドルは訝った。

「まだ仮説の域を出ない。…が、考えうるのはそのくらいだ。」

「じゃあ仮にその説が正しいとして、手だてはあるの?」

ヴォルデモートは杖を取りだしドアの鍵をかけた。
そしてなまえに向き直ると、スッと杖を構えた。

「分からん。だが、やるしかあるまい。」

「やるしか、ね…」

捨て置くという選択肢はないのか、とリドルは思ったが口には出さず胸の内に留めた。
不死への手がかり、魔法の蓄積と放出。
未来の自分がこの少女に執着する理由は本当にこれだけだろうか。

隣でそんなことを思うリドルなど意にも介さず、ヴォルデモートは杖を振り上げた。

「レジリメンス!」




******



煙突飛行をスローモーションで体験してるような感覚に目眩を覚え、あたしはゆっくり目を開けた。
体中に痛みを感じ、自分が固い床に横たわっていたことに気付く。

ここは、卿の屋敷…?

「え…?あたしいつの間に戻ってきたんだろ。」

あたしは立ち上がり服に着いた埃を払った。
そういえば着ているものもさっきと違う。
ホグワーツを出るときはジーパン、カットソー、コートという格好だったのに、今着てるのは卿の屋敷にいる時に着てた白いワンピースだ。

まさか卿が着替えさせたとか?
だとしたらセクハラ!殴ってやる。
とにかく卿を探そう。
勝手に着替えさせるのもそうだけど、人を床に寝かせとくのも非常識だ。

部屋を出ようとしたその時、あたしの他にもう一人そこに立っているのに気がついた。
床にまでつく長いローブを身に纏い、背の高い燭台に囲まれた魔方陣の前で何やらブツブツ唱えている。

…卿だ。

「うわっ!な、なんだ卿、いるならいるって言ってよ。」

「…………」

卿は魔方陣の方に集中していて返事はない。
やっぱり怒ってるのかな。
あたしは卿が何も言わないことに居心地が悪くなって、手を弄びながら床に視線を落とした。

「えーと、なんというか…いろいろ話そうと思って戻ってきたんだけど……えーと何から言えば良いやら」

沈黙が気まずくてとにかく何か話そうとしたが、何を言ったらいいのか分からない。
それでも卿はこっちを見向きもしない。
あたしがこんなに一生懸命喋ろうとしてるのに、なんて失礼なやつだ。
そもそも何であたしが卿のためにこんな気まずい思いしなきゃいけないんだ。
あれ、なんかだんだん腹立ってきた。
あたしは文句を言ってやろうと大股で卿に近づいた。

「ちょっと卿?」

横から覗きこんでみたが、やはり反応はない。
あたしはますますむっとした。
どんな大事な儀式をしてるんだかしらないけど、どうせまたロクでもないことを企んでるんでしょ。
もう頭きた。邪魔してやる。

あたしは手始めにその無駄に長いローブを後ろから思いっきり引っ張ってやろうと手を伸ばした。

「おりゃあっ!!ってうわわわっ!?」

ローブに手をかけようとしたその瞬間、その手は卿の体をすり抜け、あたしはそのままバランスを崩して前に倒れてしまった。

「いった…え?なにこれ…?」

転んだあたしの体は卿の体をすり抜けていた。
おそるおそる手を伸ばしてみると、やはりその手も卿に触ることは出来ない。

あたしは立ち上がって自分の手を見つめてみた。
特に変わった所があるようには思えない。

『…これで準備は整った。』

「!」

ふいに卿が口を開いた。
反射的に顔を上げたが、やはり卿は目の前にいるあたしに気づいている様子はない。

『今度は何の実験?』

「り、リドル…?」

リドルがどこからともなく現れて言った。
卿はそちらを見もせずに淡々と答える。

『古い書物を読んでいたら見つけた。次元を捻じ曲げ、使用者の欲する物を呼び寄せる魔法だそうだ。』

『そりゃまた、ご大層で都合のいい魔法だね。』

リドルは肩をすくめて笑った。

『なんせ数百年前の書物で、著者も変人と名高い魔法使いだ。信憑性はかなり低いが試してみる価値はあるだろう。』

『ま、それで本物なら儲け物だね。』

『そういうことだ』

そう言うと卿はすっと魔方陣の上に手をかざした。
すると燭台の火が一斉に消え、魔方陣が光りだした。

「な、な、何?卿ってば何するつもり…?!」

魔方陣を中心に風が起き始めた。
風はどんどん強くなり、卿の長いローブがバタバタと揺れる。
その時、ぐにゃりと魔方陣が歪んだように見えた。
いや、気のせいじゃない。歪んでいる。
巻き込まれては大変だとあたしは慌てて部屋の隅に避難した。

部屋の中だというのに稲妻まで光りだし、まるで台風の真っ只中のようだ。
ごうごうと風がうなり、雷鳴が轟く。
頭を抱えてギュッと目をつむったその時、バーンと大きな音が耳をつんざいた。
あまりの轟音に驚いて目を開ければ、さっきまでのは嘘みたいに風も雷も止んでいて、代わりに真っ白な煙が部屋に充満していた。
一体何が起こったのか。
だんだんと霧は晴れていき、卿ともう一人誰かが魔方陣の真ん中に座り込んでいるのが見えた。

(リドル…じゃない。誰?)

あたしは立ち上がってその人物に近づいた。
見覚えのある、でもそんなはずがない。

『え?なにココ……』

座り込んだままのその人物が困惑した声音で言った。
近づくほどに霧は晴れ、もうそれが誰なのかハッキリと見える。

『…おっさん、だれ?』

懐かしい高校の制服に身を包む、それは紛れもないあたし自身だった。




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