ハリポタ2

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歪んだ景色に驚いて、あたしは思わず目を瞑った。
しばらくして砂嵐のようなノイズが止み、目を開けるとそこは先ほどと何も変わらない卿の部屋だった。
と思ったが、何気なく右を見た瞬間、あたしはびっくりして飛び上がった。

さっきまでデスクの所にいたはずの卿がいつの間にかすぐ傍のソファに座っていて、その横の空いたスペースには'あたし'がぐったりと横たわっていた。
どうやら'あたし'は卿に魔力をもらいながら眠っているようだ。

『眠ったの?』

「うひゃあ!」

次いでリドルが背後からあたしの体をすり抜けて現れ、あたしは声をあげて驚いた。

『ああ。どうやら魔力を与えねば生きていけんらしい。』

『ふぅん、完璧な不死ってわけじゃないんだね。』

『そのようだな。』

言いながら卿は片手で'あたし'の顔にかかった髪を払った。
大抵の場合それは相手を慈しむ意味のこもった仕草のはずだが、卿の目的はただ単に'あたし'の様子を観察することだった。
おそらく数分前まではかなり衰弱していたのだろうが、今ではもうすやすやと健やかに寝息をたてている。
'あたし'は吸引力の変わらないただひとつの云々よろしく卿の魔力を遠慮なく吸収している。

『しかし裏を返せば魔力さえあればいくらでも生き永らえることができるというわけだ。安い代償だな。』

『マグルにとってはそうでもないかもしれないけどね。』

そう言ってリドルは眠る'あたし'に目をやった。
その表情にはもはや他人からの施しなくては生きられぬようになってしまったマグルへの侮蔑ともとれる色が窺える。

『他者から餌をもらわねば生きられぬ、か。まるで家畜だな。』

卿もリドルと同じ考えらしい。
しかし、ニヤリと笑みを浮かべた卿の表情はリドルのそれよりもっと非道徳的な香りがした。
卿は'あたし'の髪をすいて、その血色の悪い指を毛先まで滑らせた。

『ペットに不死のマグルか。なるほど、それもまた一興。』

『ペットねぇ。その女を可愛がりでもするつもり?』

『俺様を楽しませてくれるのであれば、そうしてやろう。どちらにしてもこの小娘はもはや俺様無しでは生きられん。
これは、このヴォルデモート卿の所有物だということだ。』

そう言って卿はよりいっそう口角をつり上げた。
他者の生殺与奪を自身の手に握る愉悦。
話の内容は大変に非人道的なのに、当の本人はひどく楽しそうだ。

「…おあいにくさま、あたしは誰の物にもならないの。」

届かない悪態をついて舌を出した。
あたしはあたしだけのものであって、間違っても卿のものなんかじゃない。
たとえ、卿からの施しを受けなければ生きていられない身の上でも。


それでも、事実あたしは卿に魔力をもらわなきゃ生きていられない。
卿から魔力を補給する'あたし'から目をそらすように、あたしは扉をすり抜けて卿の部屋から出た。
するとそれに続いて控えめに開けた扉からするりと誰かが出てきた。
過去の'あたし'だ。
'あたし'はきょろきょとあたりを確認すると足早に去っていった。
その手には今まさに卿から奪ったのであろう杖が。

これは卿の杖であたしが初めて魔法を使った日の光景だ。
また時間が進んだのか。

あの日は確か、こっそり屋敷を抜け出したことがバレて卿に怒られた。
それから…

「………あのあと、卿が」

あたしが人を殺せることに気付いた。

あたしは少し躊躇ったが、今出てきたばかりの扉をもう一度すり抜けて、再び卿の部屋に入った。


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