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ぱたん、と静かに扉が閉まるとルディン先生―もとい卿は私の腕を放した。すぐにくるりと背を向けて机に置いてあったバインダーを手に取ると、何かの書類に目を通し始めた。

「ど、どういうこと卿。そんな変装までしてホグワーツに潜り込んでくるなんて。みんな卿が闇の帝王だって知ったら大騒ぎに」

そこであたしの言葉は強制終了された。
振り返った卿の大きな手にむんずと握りつぶさんばかりの勢いで口を塞がれたのだ。

「ここではその名は言わないほうが賢明だと思わんか?お互いのためにも、な…」

さっきまでと同じ「優しい新任教師エリオット・ルディン先生」の仮面を完璧に貼り付けて、しかしその口から出るのは闇の底から這い寄る卿の言葉だった。
黙らなきゃやられる…!
そう察したあたしは顔を蒼白にし口をぴったり閉じてコクコクと首を縦に振った。
その必死さが伝わったか口を塞ぐ卿の手はゆっくりとはなされた。

「…それで何で卿…じゃなくてルディン先生はここに…?」

口を解放されたあたしは目下最大の謎に言及した。ルシウスとあれだけ不毛に罵り合う羽目になった案件だ。さぞ凡人には想像もつかぬ闇の帝王ならではの理由があるのだろう。
できるだけ穏便な理由でありますように。ホグワーツを内から乗っ取るとかじゃありませんように。

「……」
「ちょ、沈黙が怖い。」
「…お前には関係ないことだ。」

そう言って卿はぷいとそっぽを向いた。
ええまぁそうだけども、関係ないけども!言えないようなことなのかな、ダンブルドアに通報案件か。

「心配せずともダンブルドアは了承済みだ。」
「あ、なら良かっ……はあぁ!?」

あまりに予想外なその事実にあたしは素っ頓狂な声を上げた。ほこりっぽい資料室にその声が響き、卿が煩いとばかりに眉を顰める。
新任ルディン先生の完璧な仮面はもう外したようだ。

「だ、ダンブルドア先生が?うそでしょ、なんで!?卿ってばどんな非道な手を…!」
「やかましい。貴様には関係ないと言っただろう。」

追求しようにも卿はぴしゃりとそう言い捨てると、もうそれ以上の言及を許さなかった。これ以上は聞いても無駄か。それどころかしつこい煩い喧しいとお仕置きされかねない。あたしはそれ以上の情報を卿から得ることは諦めた。
ダンブルドア先生が何を考えているかは分からない…けどきっと彼のことだから何か安全策は講じてあるのだろう。
当面は心配いらない、のかな…?

「それより、」

ホグワーツの、ひいては楽しい学園生活の安全が脅かされることを憂慮していたあたしの意識は卿の声で再び資料室へと戻された。
卿はさっき見ていた資料を挟んだバインダーを手にしている。
さっきはよく見えなかったけど、そういえばあの資料は何だろう。英語だから分からないけど上の部分にマクゴナガル先生の筆跡であたしの名前が書いてある。
ん?あれって、まさか…
その正体を察してあたしの顔が青くなる前にそのバインダーが真っ直ぐあたしの頭に振り下ろされとても良い音をたてた。

「いったあ!!」
「よくもまぁここまで酷い成績を修められるものだ。貴様の頭は何だ?腐敗物か?土くれでも詰まっているのか?」
「いた、痛いってば!やめてよ脳細胞が減る!」
「無いものはもう減りようもないわ!」

それは一度では済まず、ぱこぱこぱこぱこーんと小気味良い音を立てて卿は何度もあたしの頭をバインダーで叩いた。
察した通り資料はあたしの成績表だった。マクゴナガル先生なんていうものを渡してくれたんだ。

「俺様が指導につくからにはもはやこのような成績は許さん。O.W.L試験では全教科Oを取れ。」
「え、Oって大いに宜しいのOでしょ?それって最高点…」
「異議が?」
「ナイデース。」

ぎろりと睨まれあたしは条件反射でそう答えてしまった。
くっそやっぱり卿は独裁者だ…
心の中で毒づくも、やっぱり勝てる気はしないので黙っておく。

「何をしている。授業を始めるぞ。」
「えっ授業?するの?えっ?」
「当たり前だ。貴様この俺様がわざわざ何のためにここに居ると思ってる。」
「そりゃ何かの悪だくみのためなんじゃないの…っていうか関係ないって教えてくれなかったじゃん。」

そう言い返せば卿はまた無言でパコーンと頭を叩いた。
全く人の頭をポコポコポコポコと…!

「口答えするな。返事はサー、イエッサーだ。言え。」
「お、横暴・・・っ」
「返事。」
「サー、イエッサー!」

こうして始まった新制特別授業。
爽やかで優しく、何と言ってもイケメンな新任教師、エリオット・ルディン先生。
そんなウワサの教師とグリフィンドールの落ちこぼれの2人きりでの特別授業は瞬く間にホグワーツ中を駆け巡り、女生徒たちの嫉妬と憎悪の視線はあたしの欲しいがままになった。

だがその特別授業の内容は古代のスパルタ王レオニダスも裸足で逃げ出すほど過酷なものだと知る人は誰一人いないのだった…。



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