ハリポタ

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ここに来たばかりの頃のこと。
あたしは卿以外の人と喋ることはできなかった。
閉じ込められて誰とも会わせてもらえなかったとかじゃなく、ただ単純に言語の壁にぶち当たっていたのだ。


「ボルデモート。」

「違う。ヴォルデモート、ヴォだ。ヴォ。」

「ブ…?ブォるでも…?ねーもうボルデモートさんでよくないですか?」

「Speak English.」

「ノー、アイキャント。」


投げやりなカタカナ英語を並べて、あたしはそっぽを向いた。

生まれも育ちも日本、海外旅行もしたことなく、英語の成績が特別よかったわけでもないあたしは、当然英語なんて喋れない。
一方相手は英国人。
本家本元のイングリッシュだ。

召喚(この言い方ってモンスターか何かみたい)された次の日、卿はたまたま暇だったらしく、あたしに英語を教えてくれた。
いや、別に教えてくれなんて頼んだ覚えはこれっぽっちもない。
ただあたしが、部屋でくつろいでいる卿を見つけて「ロード・ボルデモート!」とふざけ半分で声をかけたら、どうやらその発音が気に入らなかったらしくて、さっきから卿の名前の練習ばかりさせられている。


「私にずっと日本語を喋らせる気か?英語が多数派なのだからお前が合わせるのが道理だろう。」

「何言ってんだよボルデモートさんが勝手に英語圏につれてきたクセして。」

「黙れ失敗の産物が。」

「ボルデモート卿の、失敗の産物ですヨ。」

「ヴォ・ル・デ・モート・卿、だ。」


一音ずつ区切って言う闇の帝王。
なかなかお目にかかれないかもしれない。
ほっといたらそのうち某車CMのシカみたいに「はいちゃんと下唇かんでー」とか言い出しそうだ。


「聞いているのかなまえ。ちゃんと下唇をかんで発音してみろ。」

「うわ、ホントに言ったよこの人。」

「?」


ぶっちゃけボルデモートさんの英会話教室も飽きた。
いや、英会話ですらない。
さっきから延々個人名の練習ばっかりやらされてるんだもん。そりゃ飽きますよ。
これなら小学生向きの英語教室のがどれほどマシか。


「あ、ボルデモートさん、あたしトイレ行きたいです。」

「…それを英語で言えたら許可してやる。」


うわ、ここにきていきなり英会話教師みたいなこと言いやがった。
文法も何も教えてないくせに!


「I want to go to toilet!(便所行きたい!)」

「Bad manner.(下品)5点減点だ。」

「え!?何で!?」


まさかのダメ出しであたしはショックというより驚いた。
行きたいはwant to goでトイレはtoiletで…あってるのに。

不満そうにボルデモートさんを睨めば、彼はハアと呆れたようにため息をついて「いいから行ってこい」と手をひらひらさせた。
何か釈然としないけど、やった、解放だ!
あたしは嬉々として部屋から出た。
閉じかけたドアの向こうから「5分で戻ってこい!」なんて声が聞こえたけど、あたしはもちろん聞こえないフリをした。
この家広いんだから5分なんてムリムリ!まあ最初っからもう戻る気なんて無いんだけどね!

あたしは絨毯の敷かれた廊下を走り出した。




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