ハリポタ

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その知らせを聞いて、あたしはすぐさま部屋を飛び出した。
廊下を全速力で走り抜け、階段を2段とばしで駆け下りて、最後の10段を残して手すりを飛び越えた。

目的の人物はあいかわらず真っ黒な服を着て真っ黒な人たちを従えている。


「卿ーーーーーーっ!!!」

「!」


従者たちを器用にすり抜け、あたしは素晴らしい角度で目的の人物、ヴォルデモート卿に頭からつっこんだ。
背後からタックルを受けた卿はほんの少し前へよろけたものの、闇の帝王としての威厳を保つべく見事こらえた。


「…なまえ………」
「3日間も留守にするなんて聞いてないです!死ぬかと思いましたよっつーか殺す気!?あたしを殺す気ですか卿は!!卿がいないと死んじゃうんですからねあたしは!!」
「分かった…分かったから少し落ち着け。」
「リアルに死にそうだったんだぞ落ち着いてられるかーーーー!!!」


もう放さないと言わんばかりに卿にしがみつけば、卿は呆れたようにため息をついた。
そしてあたしの襟首を掴んだかと思えば、次の瞬間あたしは容赦なく彼から引き剥がされた。
地面に足はついてるけれど、まるで首根っこをつままれたネコのようになってしまう。


「死にそうだなどとほざく割には元気そうだな。もうあと1ヶ月ほど放置しても問題なかろう。」

「え、ちょっ、ゴメン怒った?1ヶ月とかムリムリほんとに死んじゃうって。」


不機嫌そうに見下ろす卿にあたしは口先だけの謝罪を繰り返した。(卿のせいで喉が圧迫されてるから少し声がでにくかった。)

1ヶ月放置だなんてマジでシャレにならない。
“死ぬほどさみしい”とかでなく、あたしは本当に卿にほっとかれると死んでしまうのだ。

どういうことか?

それは2週間くらい前のこと



****



あたしはこの日までは、毎日をダラダラ過ごすフツウの日本の女子高生だった。
特にクラスで目立つ存在でもないし、成績だって中の中。
「絵に描いたような平凡」って言葉がこの上なく似合うごくフツーーーーッの女の子だ。

それが気づいたら、なんだか暗くて湿ってるお化け屋敷のような洋館にいて、目の前にはやたら冷たい印象の黒い布を纏ったおっさんが立っていた。

そのおっさんこそがあたしの愛読書・ハリーポッターシリーズのラスボス、ロード・ヴォルデモートだなんて一体誰が想像できただろう。


「え?なにココ…………おっさん、だれ?」


仮にも闇の帝王への第一声がコレだなんて、自分でもよく殺されなかったなと思う。

―いや、違った。

殺されたんだ、この時、1回。

卿は何の躊躇いもなくあたしに杖を向けて素晴らしい発音で“アバダ・ケダブラ“を唱えた。
杖から噴出した緑の閃光に貫かれて、あたしはワケも分からぬまま死ぬはずだった。

ところが緑の閃光は、いつの間にかあたしを包んでた金色のチカチカした光にぶつかり、ほんの一瞬止まったように見えた。
しかし閃光は結局その金色の光をも巻き込んで、いっしょくたにあたしの胸へと吸い込まれた。

目の前がすぅっと暗くなって、体がゆっくりと傾ぎ、
冷たい床に身を打ちつける前にあたしは絶命した。



****



それなのにあたしはここでこうして今も生きている。
しかも一度自分を殺した張本人に寄り添って、だ。
ヴォルデモート卿はあの時、古から伝わる今では誰も知らないような小難しい闇の魔術を試していたらしい。
その魔術は時空を歪ませ、その狭間にあたしが落っこちてしまったそうだ。

つまりあたしはただの副産物。

卿はすぐに必要もないあたしを片付けようと―殺そうとした。
しかしなにがどうなったのか分からないがあたしは死の呪文を受けて死んだ直後に息を吹き返した。
それだけじゃない。
あれ以来あたしは年もとらないし死にもしない。
ケガしたって病気になったって、殺されたって数秒もすればケロッと元に戻ってしまう。

そんな不老不死のような存在になってしまったのだ。


(まぁ、そうでもなきゃあんな危険人物といっしょになんていられないや)


卿から魔力を補充したあたしは、一足先に卿の部屋へ戻って暖炉の薪を燃やして遊んでいた。

卿の薬品棚から拝借した妖しげな薬品たち。
それに薪を浸して燃やすと赤や黄色、果ては虹色のキレイな炎があたしの目を楽しませた。

炎色反応、いつだったか化学の授業で習ったなあ。

最後の薬品も使い切り、ぼんやりと金や桃色にはぜる炎を見つめていると、後頭部にゴリと固いものが突きつけられた。



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