ハリポタ

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夏休みと言えば山?プール?祭や花火、スイカにキャンプ、他にもいろいろあるけど、やっぱり何と言っても夏は海!!
きのう卿にハゲだの更年期障害だの言って頼み込んだら、なんと珍しいことに海に連れてってもらえることになった!
カタログで選んでルシウスに買ってきてもらった水着は出かける前にバッチリ服の下に着込んでスタンバイしてる。
うきわにタオルに日焼け止め、帽子も持って準備万端であたしは卿の腕を取って人生初の姿くらましを体験した。
ぐるぐると洗濯機の中に入れられたような気分を味わったあと、目の前に広がるのは青い空と白い海岸、賑わうビーチ………


「………じゃねぇ。」


立ち込める暗雲、吹き荒ぶ潮風、断崖絶壁に打ち寄せる真っ黒な波飛沫。
リゾートとは遠くかけ離れた海の上にあたしと卿は姿あらわしした。
更に酷いことに、卿は箒なしでも浮いていられるけど、あたしは落ちないように必死で卿にしがみ付いてなきゃいけない。
この時ばかりは掴みやすい卿のローブに感謝だけど、着いた瞬間落ちそうになった時は本当に肝が冷えた。


「どうしたなまえ。お望みの海だぞ?」

「頭の良い卿にはこれがあたしのお望みじゃないってコトくらい分かるよね?ってことは間違いなくイヤミですね、ええ分かりますコンチクショー。」

「はて、何のことだ。お前が余りに強請るからこうしてわざわざ連れてきてやったというのに。少しは嬉しそうな顔をしてみたらどうだ。」

「イヤミもここまでくると殺意を覚えますよ。あたしの嬉しそうな顔が見たいならとりあえず足場のあるとこにつれてけーっ!!」

「フン、誰が貴様なんぞの嬉しそうな顔など見たいものか。反吐が出る。」

「テメエエエエエェェェッ!!!!」




**********





「て……手が痺れた…肩ちょう痛い〜〜」

「ヘバっているヒマなど無いぞ、軟弱者。せっかく連れて来てやったのだから足手まといにだけはならんで欲しいものだな。」

「え?足手まとい…?何かすんの?」

「この俺様が貴様へのイヤがらせのためだけにこんな場所に来ると思うか?」


「うん。ちょう思ってた。卿ってばマジイヤなヤツだもん。」

「予定を変更して、ここへは貴様を捨てに来ただけだということにしてもいいが。」

「うーそ−でーすー!ちょっとツンデレしてみただけ!別に卿のためじゃないんだからね!ってやつ!」

「気色が悪い。」

(コイツ絶対いつかダンブルドアに突き出してやる……っ!!)


卿のローブに掴まった両手だけで全体重を支えていたせいでまだ手の感覚が戻らない。
コレじゃ殴れない。
少しでも早く感覚を取り戻そうと手を軽く振っていたら、急にふわりと体が傾いた。
慌てて状況を把握しようとしてみるものの、作用点を失った力は空回りして手足はただ空を掻くだけ。
あたしの体は完全に宙に浮いてしまっていた。

原因…というか元凶は言うまでもない。


「ちょっと卿!今度は何のイヤがらせ!?いー加減にしないと訴えるよっ!」

「気にするな、ちょっとした実験だ。」

「そういうのは人権侵害って言うんだぞ下ろせーーーっ!!」


次の瞬間、フッと身体が重くなってあっという間にあたしは固いゴツゴツした地面に尻餅をついた。
それはもう尾てい骨とか骨盤とか仙骨とか…とにかくもういろんな骨が砕けたんじゃないかって程の痛みで、いっしょにいるのが卿じゃなければあたしは多分小学生のように泣き喚いてたと思う。
卿の前で泣いてなんかやるもんかよ。絶対喜ぶもんあいつ。


「…ったあああ〜〜〜っ!!!このバカ卿っ!!落とす奴があるか!」


一頻り痛みに耐えたあたしは杖を構えたままの卿を涙目で睨み上げた。
卿は悪びれた様子なんかひとつも無い。
それどころか「ふむ。」なんて何か納得したみたいな顔であたしを見下している。


「なるほど、やはりお前にかけた魔法は数秒で無効化されるらしいな。」

「は?」


あたしはまだ痛むお尻を押さえながら立ち上がった。
無効化?何それどういうこと?
あたしが不死身だってこととはまた別?


「お前が怪我もせず歳も取らず死なないことはもう分かっているな?」

「うん。怪我してもすぐ治っちゃう。生理もこないし髪も全然伸びない。」

「お前はもうちょっと恥じらいをもて。」

「おっさん相手にそんな乙女チック要素は発動しねーですよ。」

「貴様……まぁいい、つまりだ。」

「うわ、何そのこっちが大人になってやるよ的な態度。腹たつ。」

「お前には何らかの外的力が加わっても、その力を受ける前のある時点へ戻ろうとする力が働くということだ。」

「え?は?何それ?もー卿っていっつも物事を難しく言い過ぎ!」

「……お前は死なないし魔法も効かぬし成長もせんということだ。」

「何かイラッとする表現があったよね、ね?」

「…さっさと行くぞ。」

「あ、コラ待て!」


あたしは急いで落としてしまった荷物を拾ってホントにさっさと行ってしまう卿の後を追った。
ついて行きたくなんかないけど、そうしなければ卿は容赦なくあたしをここに置き去りにするに決まってる。


「ねぇ卿、でもさ、こないだ卿はあたしに魔法をかけてバケツ持たせて立たせてたじゃん。アレは?」


卿に追いついたあたしは大股で歩く彼にまた遅れをとらないように、早足で隣を歩きながら問いかけた。


「あれは正確にはお前にかけたのではなく、バケツに呪いをかけておいたのだ。あの呪いは持ってるものに対して断続的に作用するから、お前の鈍い力では追いつかなかったのだろう。」

「………へー。」

「…跳ね返せない魔法もあるくらいに覚えておけ。」

「あー、最初からそう言ってくれればいいのに。せっかく上手に説明できるんだからわざわざ難しく言わないでよ。」

「………。」


波が高く打ち寄せる崖に大きな亀裂が入っている所で卿は足を止めた。
そっと亀裂を覗き込んでみた。
下は暗くて見えないけど海水が流れ込む音が微かに聞こえる。
それと一緒に風が吹き込んで岩にぶつかって亡者の叫びのような恐ろしい音も。

あんまり考えたくないけど……ユーレイとか出そう。



「ねぇ卿、まさかここが目的地とか言わないよね?」

「貴様にしては察しがいいな。分かったのならさっさと降りろ。」


卿はさも当然と言わんばかりにあたしを見下した。
あたしの顔はきっと蒼白だったろうと思う。


「お、降りろって………何言ってんの卿!?コレ少なく見積もっても軽く100mはあるよね!あたし今日海で遊ぶ気マンマンだったから箒持って来てないよ!?ロッククライミングか!逆ロッククライミングでもしろってか!!?」

「わめくな。やかましい。どうせ落ちてもすぐ治るし生き返るだろう。」

「それまでの恐怖も痛みも無かったことにはなんないんだから!!っていうか何!?まさかあたしをムダに死なせて遊ぶためにここまで連れて来たの!?うわああ卿の陰険ヤロオオォォ!!!」

「あーうるさい!」


痺れを切らした卿はローブに包まれた真っ黒な腕をあたしに伸ばした。
突き落とされると思ったあたしは反射的に目をつぶったけど、来たのは身体が落下してく感じじゃなくて何か大きなものに押し付けられた感じと足下の宙ぶらり感。
それと背中の圧迫感。

そっと目を開けてみたが目の前は真っ暗…というより真っ黒で、少し見上げるとそこが卿の顔で、あたしは卿に抱きしめられた―というより抱えられた形で亀裂の内部をゆっくり降下しているのだと分かった。


「う、うわわわわ……っ」

「暴れるな。貴様に魔法をかけて降ろすことができぬのだからこうするより他に無いのだ。だから自分降りろと言ったのに………。」

「だからって…!っていうか卿ホントこんな所に何の用があるの?」

「説明は下に着いてからだ。」


それきり卿は黙ってしまったのであたしは困ってしまった。
卿にこんなに密着していると分かってから心臓が早い。
卿にバレて「俺様に見惚れたか」なんて言われちゃものすごい癪だ。
だからいつものように憎まれ口の応酬で誤魔化したかったのに、こんな時に限って頭の中がぐちゃぐちゃで言葉が思いつかない。
あたしはギュッと目をつぶってこの動悸は暗い穴へと落ちていく恐怖のためだと言い聞かせた。

そしてあたしたちはゆっくりと亀裂の底に降り立った。
中は意外と大きな空洞で、入り口付近は外の海水が入り込んで入り江のようになっている。
奥のほうはまるでダンジョンのような洞窟だった。
あたしには卿の目的が未だに分からない。


「卿、ここに用があんの?いい加減教えてよ。ねーっってば卿ー。」

「まったく、いちいちうるさい奴だ。」


そう言って卿は袂からキラリと光る何かを取り出した。
それはシャランと不思議な音をたてて卿の手から滑り落ち、あたしの目の前にぶら下げられた。

外から水面に反射して僅かに入る光を受けて輝くそれはとても綺麗なのに背筋が凍るほど不気味で、なにかにとてもよく似ていた。


「俺様の宝を隠すのだ。」


ここはとても暗いのに卿の不敵に笑う顔がハッキリ見えた。

ホークラックス

その言葉が瞬時に頭をよぎる。
Sの刻印が施された金のペンダント。
なにかに似ていると思ったそれは、他でもない、卿によく似ていた。






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