ハリポタ

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「エィビーシーディーイーエフジー♪エィチアイジェイケィエルエムエーヌ♪」


キラキラ星の節で歌うアルファベットを途中まで口ずさんで、あたしは右手に持ってた“magic hour”の本を本棚に並べ、左手の“national magic”を本の山へと返した。
空だった卿の部屋の本棚はやっと4分の1ほど埋まったけれど、積み上げられた本はいつまで経っても減る気がしない。
これ全部を本棚に片付けるまで、あたしはあと何回アルファベットの歌を歌えばいいんだろう。


(それもこれも卿が悪いっ…!)


あたしが卿の本棚を整理している理由、それは――






「ボ・ボ・ボルデモート、ロード・ボルデモート♪アバダ・アバダ・アバダ・アバダ・アバダ・ケダブ痛っ!!!」

「その呪文は口にするなと言っただろう。それにボではなくヴォだ。」

「あ、発音正しかったらいいんだ?」

「そういう問題じゃない。」

「ったー!!人の頭ゴンゴンゴンゴン殴んないでよ!」


数時間前、あたしはふと思いついた会心の作な替え歌を歌いながら屋敷の中をご機嫌で歩いていた。
残念ながら卿に阻まれて完唱はできなかったけれど。
しかたないのであたしはスタスタと歩いていく卿の後ろをついてって不平不満を浴びせることにした。
やっぱ日頃のストレスはその原因にぶつけるのが一番だ。


「って言うかねー、卿は何でもかんでも頭ごなしにダメダメ言い過ぎだと思うワケですよ。そりゃあたしだって何でダメなのかちゃんと説明してもらえれば自重するしさー。」

「口先だけという言葉を知っているか?」

「卿は褒めて伸ばすってこと知ってる?」

「貴様を褒めても伸びるのはそのお調子者な性格だけだ。」

「ははーん、そうきましたか。卿はあたしの明るく前向きで人気者な気質が妬ましいんだね、分かります。」

「…………………。」

「ちょ、卿、せめて何か返事しようよ!ツッコミなしは寂しいから!!」


卿はそのまま自分の部屋へ入っていつものデスクにどっかりとついた。
そして置いてあったデスイーターからの報告書に目を通し始める。
仕事モードになった卿はもうあたしのことなどお構い無しだ。
いつもならあたしめそこで諦めて大人しく引き下がるのだけど、さっき気持ちよく歌ってたのをジャマされたことでまだムカムカしてたあたしは卿の手から大きなファイルをひったくって……


「聞けっ……ての!!」

「!」


投げ捨てたファイルは卿の頬を掠め背後の本棚に本と一緒に収められていた小さな箱を破壊し、何が入っていたのか、箱は衝撃で軽く爆発した。


「え…………」

「な……っ」


その衝撃で本棚はぐらりと傾き、その影があたしと卿を覆う。

気づけばあたしだけがその大きな本棚と大量の本の下敷きになっていた。

そして案の定、怒った卿に片付けを命じられた…というわけだ。






(…でもあたし悪くなくない?悪いのは自分勝手な卿じゃね?)

「……っと、この本タイトル無いな…。」


Mから始まるタイトルの本を探していたら、タイトルの箔押しも著者のサインもない真っ黒な本を見つけた。
表紙は革でできていてそれなりに高そうな本に見えるが、結構年代物っぽく擦りきれてボロボロになっている。
でも卿がわざわざ自室の本棚に入れて置いてるくらいなんだから、それなりに重要な本なんだろう。


「うーん、でもこれじゃどこ入れればいいかわかんないなー…。」


あたしは中身にタイトルが書かれているかもしれないと思いパラパラとページを捲ってみた。
しかしそれらしきものは全く見当たらない。
それどころか本文さえもこの本は有していない。


「何このやる気のない本………あ…!?」

ふいに真っ黒で冷たい波が本に触れてる右手から全身に駆け巡り、あたしは危うく本を取り落としかけた。

この感覚をあたしは知っている。
今となっては馴染み深いものだ。

まさか、と思ってあたしはその革張りの本をもう一度よく確かめた。
そして見つけた。
数十年の月日に晒され風化し消えかけているけれど、T.M.リドルの名前が確かに刻まれていた。


「リドルの日記だ………」


先日のペンダントに続いて二つ目のホークラックスを目の当たりにしてしまった。
それが分かると急に手にある本が重たく感じた。
卿はいったい今いくつのホークラックスを作っていて、そのうちのどれだけをまだ手元に置いているんだろう。

あたしはちらりと、まだ本棚に収められていない本の山に目をやった。
これがホントにリドルの日記だとすれば、この手の中にあるのはホグワーツの優等生も同じ…!
優等生の手にかかればこんなめんどくさい作業もちょちょいのチョイだよね!?


「ふふふ…あたしってばいいもの見つけちゃったのかも……!」




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