ハリポタ

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いつも悪いことしに出かけてて屋敷にいることは少ないクセに、こんな時に限って卿はここ数日ほとんど外出していない。
小休止とでも言うように、のんびり本を読んだり新しい魔法を試したりしている。
いつもなら卿が何してようと邪険にされようと構わず卿の部屋に遊びに行っていたけど、今はどうしてもそんな気にはなれない。

卿はあたしに人殺しをさせようとしているかもしれない。

そればかりが頭の中をグルグル巡って、あたしはリドルに会ったあの日以来あからさまに卿を避けていた。


(ルシウスのバカ……こんな時にいないなんて。)


新学期が近づき、今頃家で楽しい学園生活の準備をしているであろうルシウスを思い、あたしはあのデコがもっと広がるように念を送った。
この念が通じる通じないに関わらず、あの生え際は後退していくのだけど。

しかし、ルシウスという話し相手がいない今、あたしはこのモヤモヤした気持ちを誰にも相談できないまま抱え込んでしまっている。
屋敷しもべ妖精たちは「ご主人公様の悪口は仰ることはできません!」の一点張りだし、庭小人たちは、雑談の相手としては申し分ないけど、相談相手としてはイマイチだ。


(こうして思うと、あたしってこっちに友達少ないなぁ……)


あたしは自室の窓辺にもたれてため息をついた。
こうしている間にもリミットは迫っている。
卿に貰った魔力が残り少なくなっているのが何となく分かるのだ。
2、3日中…いや、明日くらいには補充しなければ危ないかもしれない。
そうなれば嫌でも卿と顔を合わせなくちゃならない。


(やだな…卿に会うの、気まずい………)


ふう、とため息をつくのと同時にノックの音がした。
一瞬、卿が来たのかと思ってドキリとしたが、卿ならノックなんてしない。
あたしは早くなった呼吸を整えるべく一度深呼吸してから「どうぞ」と言った。


「失礼します。」


入ってきたのは名前もしらない死喰人の一人だった。
知っていたとしても、みんな仮面を着けて黒いローブのフードをすっぽり被っているから誰だか分からない。


「なまえ様、我が君がお呼びです。すぐに書斎へ。」

「……………やだ、です。」


あたしは一度死喰人に向けた目を再び窓の外へ向けた。
卿があたしを呼びに死喰人を遣るなんて滅多にない……と言うより、初めてだ。
きっとここ数日卿をあからさまに避けていたことを言及されるのだろう。
普段はあたしになんか無関心なクセに、どうしてこんな時ばっかり気にかけてくるんだろう。


「ごめんなさい。今ちょっと体調が悪いので会えません、って伝えてください。」

「しかしなまえ様……」

「この俺様にそんな安い言い訳が通用すると思うか。」

「!」


ゾクリと一気に血が冷えて、今度こそ心臓が止まったかと思った。
ゆっくりと振り替えれば死喰人は恭しく頭を垂れていて、その先に卿が立っていた。

卿がすっと手を振ると死喰人は部屋を出て音もなくドアを閉めた。
そして張りつめた緊張感の中にあたしと卿だけが残された。


「思い上がるなよ小娘が。貴様に拒否権などない。」

「……………………」


いつもみたいに軽々しく言い返せない威圧感。
卿は本気で怒っている。
どうせ反論出来ないのなら、とあたしは黙りを決めこんだ。
言いたいように言えばいい。
それで諦めてさっさとあたしの部屋から出てっちゃえ。


「もうどれだけ魔力を摂っていない。何のつもりか知らんが、これ以上つまらん意地を張っていたら死ぬぞ。」

「…………………」

「何とか言ったらどうだ、なまえ。」

「……………」


あたしはそっぽを向いたまま、早く帰れ早く帰れと念じ続けた。

すっと卿が動いたのが視界の端に見えた。
やっと諦めたのかと思った瞬間、バーンと鼓膜を突き破るような爆音が響き、驚いて体がビクリと跳ねた。
動きが速くなった心臓を押さえておそるおそる卿の方を見れば、少しだけ焦げた床に向けられた卿の杖から微かに硝煙が出ていた。


「身の程を知れ、マグルが……貴様ごときがこの俺様を無視するなど許されんことだ。」

「な、なによ………っ」


大きな音にびっくりして涙腺が緩んだのか、あたしの目からはついに大粒の涙が滑り落ちた。
さすがに泣くとは思ってなかったのか、卿の端整な眉がピクリと動く。
自分自身でも泣いてしまうのは予想外だし悔しくて堪らないけど、一度溢れた涙はそう簡単には止まってくれない。
涙腺はまるで決壊したダムのように、涙を次から次へと流してく。



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