ハリポタ

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急に体が重くなったと思ったら、あたしはそのまま万有引力の法則に従って埃っぽい床に転げ落ちた。


「ふぎゅっ!!う……いたた…………」

暖炉から吐き出され体のあちこちをぶつけた。
痛くて涙が出そうになったけど、堪えてまずはあたりを見渡す。
ここはホグズミートのどこだろう。
少し暗くてよく見えないけど何かよく分からないものが薄汚いガラスケースに飾られていたり棚に並べられたりしている。
何かの店であることは確かなようだ。


「おや、お嬢ちゃん大丈夫かい?」

「あ、大丈夫です………」


ぶつけた鼻頭をなでながら差し伸べられた手の主を見上げたその瞬間、あたしは言葉を失った。
しわしわのその手はそれだけならただの年配の方のそれだけど、その老婆は普通の年寄りより明らかに怪しくて、それはもう他に言葉が見つからないくらい怪しかった。
長い爪の先は不自然に尖ってて、目深に被った黒いフードから大きな鉤鼻がのぞいている。


「鼻をぶつけたのかい?おいで、良く効く傷薬をあげるよ。」

「い、いいいです!ホントに大丈夫ですから!!」


黄色い歯が不揃いに並ぶ口をニィと吊り上げて笑う老婆は、昔話の絵本に出てきた悪い魔女そっくりだった。
嫌な予感がしたあたしは申し出を断って慌ててその場を走り去った。

店から出ると、外はなんだか薄暗くてじっとりしててカビ臭かった。
本物を見たことがあるわけじゃないけど、ここは明らかにホグズミートじゃない。


「ど、どういうこと……?あたしちゃんとホグズミートって言ったよね!?」

「闇の陣営の…しかもヴォルデモートの自室とホグズミートが繋がってるわけないだろう?」

「わっ!リドル!」


困惑するあたしの後ろから勝手に実体化したリドルが言った。


「あの屋敷からフルーパウダーで往き来できる所は限られているんだよ。例えば死喰人やその関係者の家とか…ノクターン横丁とか、ね……。」

「………まさかここって……」


すうっと体から血の気が引いた。
この薄暗くて怪しい感じ。
あたしノクターン横丁に来ちゃったんだ……!


「うそおおおぉぉ!?せっかく『初めてのフルーパウダーで失敗してノクターン横丁に行っちゃう』っていうベタなミスは回避したと思ってたのに!!!」

「落ち込む前に早くここを抜けた方がいい。君みたいに間抜けそうな女の子は格好の獲物だからね。ぐずぐずしてたらあっという間にクスリ漬けにされて売られるか標本にされちゃうよ。」

「ぎゃああ!ノクターン横丁こわっ!!!え、えーとっ………どっちに行けばいいの!?」

「そんなのは自分で考えなよ。」

「はっ!?」


無関心さを微塵も隠す気のない返事に、あたしの頭は一瞬フリーズした。
目を丸くするあたしをよそに、リドルは怪しいお店のショーウインドウに並んだ怪しい商品を興味深そうに眺めてる。


「ちょ、ちょっと待ってよリドル!こんな所であたしにもしものことがあったらあんただってこまるでしょ!?」

「いや、別に。」

「あんたあたしの味方じゃないの!?」

「は。味方も何も、」


リドルは大袈裟に肩をすくめてくるりと振り返った。


「いいかい、なまえ。僕は君に興味があけど、それと君を助けることとはイコールで結ばれないんだよ。」

「そんなヘリクツ………っ」

「屁理屈なんかじゃないさ。科学者は実験中にマウスが痙攣を起こしたからって実験を中止してマウスの治療をすると思うかい?」


薄汚いショーウインドウの脇に凭れて彼はまるで子供にチェスのルールでも説明するみたいな口調で、薄情なことをサラリと言う。
あたしはなんとなく不穏なものを感じ取ってジリ、と後ろへ下がった。
怯えた気配に気付いたのか、リドルはクスリと笑ってあたしに近づいてきた。


「ねえ、なまえ。もしもの話だけど……」


リドルがニヤリと笑う。
あたしの嫌いな、卿と同じ笑い方。
でもこっちのほうがより恐ろしく見えるのは気のせいだろうか。


「僕が今、君を見捨てたら君はどうなるんだろうね?」

「……………っ」


目の前で不気味な笑みを浮かべるリドルに気をとられ、あたしは背後に迫る手に気づかなかった。





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