ハリポタ

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東から差し込んだ日の光が目をくすぐり、あたしは夢の淵からゆっくりと引き戻された。
覚醒しきらない体をベッドから起こし、リリーに借りたパジャマを脱ぎ捨て制服に手を伸ばす。
朝の空気に晒されていた袖に手を通せば、その冷たさに頭が一気に覚めた。


「随分早いじゃないか。珍しい。」


着替えが終わると、リドルが姿を現した。


「初授業の日だからね。目が覚めちゃった。」


卿の屋敷では起きたい時に起きて寝たい時に寝るという不規則な生活を送っていたあたしだけど、今日は特別だ。
あと数時間もすればどんな楽しいことが待ち受けているのかと思うと、居ても立ってもいられない。


「まるで日曜の朝の子供だな。」

「リドルはひとこと余計。」


姿見の前で自分の格好を確認したら次はカバンの準備だ。
と言っても、教科書は全部各教室で借りるつもりだから、持ち物は数枚の羊皮紙とペンケースお菓子くらい。
ちなみに羽ペンはどうにも使いにくかったので、羽ペン風のボールペンを使うことにした。
インクを持ち歩いて溢したりしたらいやだし……いや、待てよ?


「そう言えばリドルの日記って、書いても書いてもインクが吸い込まれていくよね。」

「溢したインクを吸うスポンジ代わりなんかに使ったら、君への魔力の供給を即刻止めるからね。」

「や、やだなーそんなことしないって!リドルこそ、あたしに魔力くれないならすぐに校長に引き渡すんだからね!」


あたしは内心の焦りを隠しながらビシッと人差し指を突き付けてリドルを脅した。
もちろん日記のことはすでにダンブルドア先生に報告済み。しかし先生はあたしの体質を考慮してあたしに日記を預けてくれている。
まあ、それもあたしの体が元に戻るまでだけど。
戻ったらソッコーバジリスクの牙をぶっ刺してやる。


「ふん、どちらにしても君が困ることになるのは変わりないけどね。」

「う……ちっ、卿の子は卿………。」

「子じゃない。」


リドルの日記をカバンに入れ、留め金をパチンと閉めて準備は完了した。


「さて、行くか。」

「ネクタイ締め忘れてる。」

「いいの!自分じゃできないからリリーにやってもらう。あわよくばその光景をあのメガネに見せつけてやんのさ!」

「ホントに君はロクなこと考えないね……。」


あたしは部屋を出て談話室への階段を軽やかに駆け降りた。

部屋は一人部屋を貰ったからリリーたちとは別室だ。
急な転校生でこれしか用意できなかったというのが表向きの理由だが、本当は他の生徒がリドルによる被害を被るのを防ぐためだ。
だってこいつ敵地に侵入できたのをいいことに何をするか分かんないし。


「なまえ!」


談話室に下りるとリリーがこっちに手を振った。
室内には他にも起きたばかりの生徒が何人かいる。


「リリー!おはよう、早起きだね。」

「私も今来たところよ。なまえこそ早いわね。私、なまえは絶対寝坊する子だと思ってたのに。」

「う、リリーってけっこうストレートに言うよね。」


図星を突かれ少し大袈裟に傷ついたフリをしてみせると、リリーは「そうかしら」なんて言ってキレイに笑った。
それにつられてあたしも笑いかけた時、黒い影がぬっとあたしとリリーの間に割り込んだ。


「おはようリリー、君のいる朝はなんて輝いているんだろうね。」


続いて頭上から聞こえる調子の良い愛のセリフ。
まさかと思い男子部屋に続く階段に目をやればシリウスたちがアクビをしながらおりてきた。
ああ、朝からイヤなヤツに会った。


「おはようポッター。爽やかな朝を台無しにしてくれてありがとう。」

「そんな!お礼なんていいんだよリリー!!」

「そのもじゃもじゃ頭の中には自動変換機でもついてんのかメガネ。」


あまりに都合の良い解釈をツッコむとジェームズは振り向いてわざとらしく驚いた。


「あれ、ちんくしゃじゃないか。いたのかい?」

「ちんくしゃ!?ちょっと何それ!ランク下がってない!?」

「テメーなんかちんくしゃで充分だろ。」


いつの間にかこっちへ来てたシリウスが横やりを入れた。
睨んでやると彼は余裕そうにニヤリと笑う。


「よぉ、ちんくしゃ。」

「おはようジコチュー王子。」

「今日も見事な残念っぷりだな。」

「あんたこそナルシストっぷりに磨きがかかってるようで。」


あたしたちは火花を散らして睨み合った。
せっかく早起きしたのにこいつらに会うなんてツイてない。
早起きは三文の得だなんて誰が言った。




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