ハリポタ

□15
3ページ/3ページ



「………浅い人間だね、シリウス。」

「…………あ?」


なまえは拳を振り上げ反論するでもなく。ましてや泣き喚くでもなく、ただワントーン低い声でそう告げた。
シリウスを見るその瞳はさっきまでの諌めるものではなく、哀れみや軽蔑のそれに替わっている。
なまえはシリウスが油断した隙に彼の手からセブルスの杖を奪うと彼の横を無言で通り過ぎた。


「あ、セブルス耳ちょっと切れてるよ。」

「うるさい、余計なお世話だ。」

「もー、ツンデレも行き過ぎると訴訟もんだよ?」

「………ふん。」


なまえから杖を受け取ったセブルスは無愛想な態度で彼女をあしらいスタスタと行ってしまった。
なまえはその後姿を見送りながらやれやれと腰に手を当てる。
そして彼女はそのまま後ろにいる二人を振り返りもせず、広間へ向かうべく歩き出した。
その背中がシリウスの苛立ちを再び燻ぶらせる。
気付けば彼はなまえに向けて杖を構えていた。


「ペトリフィカストタルス!」


彼の放った呪文は正確になまえの左足に命中した。
呪いを受けたなまえの体はぐらりと前のめりに傾く。
石のように固まったなまえの悔しさに歪む顔がシリウスの目に浮かんだ。
いい気味だ。
今度こそ泣いて、許しを請えばいい。
まぁ、謝ったところで許してやる気も術を解いてやる気も毛頭無いが。
シリウスは満足げに鼻で笑った。
が、しかし、次の瞬間なまえは再び正常に一歩を踏み出し歩き出した。


「!!?」

「あれ?!今当たってなかったかい?」

「あ、ああ確かに当てたハズ………」


シリウスだけでなく隣で見ていたジェームズも信じられないものを見た驚きを隠せず目を丸くした。
数歩歩いたところでなまえは思い出したようにくるりと振り返った。
黒いローブと彼女の髪がそれにあわせてふわりと揺れ、形の良い唇が勝ち誇った笑みを浮かべた。


「……………!!」

「あの…ちんくしゃめ………っ!」










「………ってことがあったんだよ!」

「あいつは何か強力な反対呪文でもかけてたのか?」

「でもあのちんくしゃがそんな高等な魔法使えるとは思えないよ!」

「ちょ、ちょっと待った。」


怒りに任せてあーでもないこーでもないと熱くなっていた2人を止めたのはリーマスの制止だった。
右手を上げて流れを止めた彼が二人の目に映る。


「シリウス、本当になまえにそんなこと言ったの?」

「?ああ、反応薄くて面白くも無かったけどな。」

「君って奴は………」


リーマスは二人を止めた手で頭を抑え深くため息をついた。
てっきりリーマスも賛同してくれるものだと思ってたシリウスはその仕草を見てまた苛立ちを覚えた。


「なんだよ、なんか問題あったか?」

「大アリだよシリウス。いくらなんでもそれは言っちゃダメだ。…ジェームズ、一緒にいたならなんで止めなかったのさ。」

「え?何をだい?」

「シリウスがなまえを……ジャップなんて言ったことさ。」


リーマスは少し躊躇ってからその言葉を口にした。
ジェームズは無邪気そうな目で考え事をするように上を向いて、結局は素っ頓狂な答えを出した。


「そういえばそれ、さっきも思ったんだけどどういう意味なんだ?」

「なんだよジェームズ、知らないのか?ジャップってのは……」

「差別用語だよ。」


リーマスはシリウスが友人に良からぬ考えを植えつける前にその言葉を遮った。
発言を止められたと同時に非難されたシリウスはムッと顔を顰める。
しかしリーマスはそんなことには構わずに説明を続けた。


「日本人を不当に差別する言葉だ。シリウス、どういうつもりでそんなこと言ったのかは知らないけど、軽々しく使っていい言葉じゃないよ。」

「うるっせーな、お前まで俺に説教する気かよ。」


声を低くして威嚇するシリウスにリーマスは彼の機嫌の悪さを知った。
いつもならハイハイと聞き流すのに、よっぽどなまえにイラついているのだろうか。


「……頭が冷えたら一言謝っておきなよ。」

「フン……。」


この状態のシリウスに何を言っても無駄と判断したリーマスは一足先に寮へと戻ることにした。
いくら素行が悪いとは言え、彼が気のいい奴だということは友人であるリーマスにはよく分かっている。
冷静になれば自分の誤りに気付くだろうと思ってのことだった。
リーマスのいなくなった広間のテーブルでジェームズはシリウスに問いかけた。


「なあ、どうしたんだよ。いつもの君らしくないじゃないか。腹でも痛いのかい?」

「……………俺にもわかんねぇよ。」


正体の分からぬ苛立ちを抱えたまま、彼も席を去っていった。



.
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ