ハリポタ

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暗い部屋の中、暖炉の灯りに二人の男の姿が照らし出されていた。
一人は豪奢な革張りのソファに身を沈め、もう一人はその後ろに控えている。

声が聞こえるが、それは専ら一人だけのものだ。
どうやら立っている方の男が何かの報告をしているらしい。

ふと、声が途切れ静寂が訪れた。
揺れる暖炉の炎に合わせて、今まで喋っていた男のプラチナブロンドの髪が表情を変える。


「そうか……やはりホグワーツへ行ったのだな。」

「はい。しかも我がマルフォイ家に資金提供を要求しています。」

「フン。乏しい脳のくせに悪知恵の働く奴だ。」


ソファに座っていた男が立ち上がると、その足下を大蛇が這った。
伏せていた瞳は炎を映し紅く光る。


「よい、アブラクサス。金は俺様が出してやる。お前はあのバカに名を貸してやれ。」

「………仰せのままに。」


アブラクサスと呼ばれた男は恭しく頭を垂れ、静かに部屋から出ていった。
その主であるヴォルデモートは一人になった部屋でゆっくりとデスクに近づき、そこに置かれた透明な水盆を覗きこんだ。
中には銀色のもやが渦巻き、微かに少女の高い声が聞こえてくる。


“そうやって恩を売って、いざという時に殺人の道具にするつもりだったの!?”


“卿には関係ないでしょ!”


もやの中に映るのは屋敷を出ていった日のなまえの姿。
このやり取りの後、荒らされた自室でリドルの残した彼女の同行する旨を伝えるメモを発見した彼は、苛立ちに震え直ぐ様そのメモを灰にした。

気に入らなかった。
勝手な行動をする自らの分身も、ペットの分際で思い通りにならないなまえも。


「あの愚か者め………」


水盆を見下ろしたまま忌々しげにヴォルデモートは呟いた。
もやの中のなまえが泣き出しそうな顔のまま消えていった。















同じ頃、ホグワーツ在籍の少年ジェームズもなまえへの苛立ちを周囲に撒き散らしていた。
彼女がホグワーツへやって来てからというもの、彼は想い人リリーへの接触をことごとく邪魔されているのだ。


「もうガマンならない……っ!」

「お前がガマンしたことなんて今まであったか?」

「茶化さないでくれよシリウス!僕は本気なんだ!」


ドンと大広間のテーブルを叩いて訴えるジェームズ。
その目が僅かに涙ぐんでいるのを見て彼の親友シリウスはどん引きした。
鼻をすすりながらなおもジェームズは続ける。


「あいつ転校生って立場を利用して、僕がリリーに近付こうとするとやれトイレはどこだのやれ暴れ柳が見たいだの言ってリリーを連れ回して……!極めつけにさっきのアレ!もう本当に腹が立つよ!」

「ああ、アレな。アレはさすがに俺も驚いた。」

「アレ?何かあったの?」


今まで静かに話を聞いていたリーマスが口を挟んだ。
さっきまで一人医務室に行っていて彼らと別行動をしていたリーマスは、数十分前のできごとを知らないのだ。
しかしいつもクールなシリウスが驚いたと言うのだから相当のことなのだろう。


「そうだ!聞いてくれよリーマス!僕たちの身に起こった不愉快極まりない出来事を!」









数十分前、午前ね授業を終えたジェームズ、シリウス、ピーターは医務室へ向かったリーマスと別れ昼食をとるべく大広間へと向かっていた。
今日はもう授業は無く、午後から何をして過ごそうかと話ながら歩いていると、ジェームズが見知った後ろ姿を見つけた。


「……食前の運動でもどうだい?シリウス。」

「!……オーケィ、乗った。」


ジェームズのしゃくった先に同じくその人物を確認したシリウスは、獲物を見つけた獣のように口角をつり上げた。
完全に話について行けてないピーターを置き去りにして、二人は杖を取り出しながらその人物に早足で近づいた。


「やあスニベルス!」

「!」


スニベルスと呼ばれた人物、セブルスは振り返ると同時に反射的に杖を構えようとしたが、シリウスの無言呪文によって杖はあっという間に彼の手の届かない所へ飛んでいってしまった。


「奇遇だな、君も今から昼食かい?実は僕らもなんだけど君と一緒の空間で食事なんて気分が悪いから暫くそこで石にでもなっててくれないか。」


ジェームズは丸腰になったセブルスへ杖を向けたまま悪びれることもなく言った。
対するセブルスは杖を飛ばされた悔しさに歯を剥いてジェームズを睨み付ける。


「ふざけるなポッター。貴様が広間へ行かなければ良いだろうが。」

「冗談はよしてくれよ。君のために僕が昼食を我慢するのかい?ありえないね。」

「我慢か。貴様には決定的に欠けているものだな。この機会に忍耐というものを身に付けてみたらどうだ。」


一触即発の空気の中セブルスはジリジリと後退りながらジェームズたちと距離をとった。
2対1なうえに彼の手元に杖は無い。
圧倒的に不利な状況だ。

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