ハリポタ
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気付けばシリウスたちと言い争ったあの日から数日が経った。
お調子者のジェームズとはたまに嫌味の応酬を繰り返していたが、あれ以来シリウスとは一言も話していない。
それどころか顔も合わせていないし、下手したら姿も見ていないかもしれない。
それは彼があたしを避けているからか、あたしが彼を避けているからか、あるいは両方か。
とにかくあたしはシリウスを目にする機会が減り、いつしかあの時の怒りや呆れもおさまってきて……なんというか、ちょっと自己嫌悪に陥っていた。
「あたし酷いこと言っちゃったのかも……」
「まだそんなこと言ってるの?あれはどう考えたってブラックが悪いわよ!」
落ち込み気味のあたしを慰めてくれるのはもはやすっかり仲良しのリリーだ。
その隣にはお菓子仲間のリーマス、そしてなぜかいるジェームズ。
「そうそう、なまえが気に病むことは無いよ。」
「いやーやっぱ言いすぎだったんじゃないか?なまえはちょっとでしゃばりだったね!」
「ポッターは黙ってて。」
リリーにピシャリと切り捨てられジェームズは不満そうに口を尖らせた。
その様子にリーマスは苦笑しながらもあたしのフォローを続けてくれる。
「なまえは正しかったと思うよ。シリウスは気のいい奴だけど人として未熟な部分が大いにあるから。」
「そう!それなのリーマス。あたしそんな相手につい”浅い人間”なんて言っちゃって……は〜…そうだよね……小学生相手にマジ喧嘩するのと同じことだった…」
「あ…そっちなんだ……」
「めちゃくちゃ上から目線だね!」
「あったりまえでしょ。なんであのバカとあたしが対等なの。」
「そうよ、さすがなまえだわ。」
フンと鼻を鳴らして言い切るあたしをリリーが小さく拍手をして讃えてくれた。
そう、シリウスはコドモ。
言っていいことと悪いことの区別もつかないようなお子ちゃまだった。
そんな奴にムキになることなんて大人気ない。
「ま、あたし大人ですからね。ガキの言うことなんざもう気にしねーですよ。勝手に何でも言ってりゃいいさ。」
「誰がガキだって?」
「あれ?シリウス、帰ってきてたのかい?」
ぱっと振り向けばそこには眉間にしわを寄せたシリウスがあたしを見下ろし立っていた。
なんだ、いたのか。
今までの会話を聞かれてたのかもしれないけど、大人だから気にしない。
「お前らまで一緒になって俺の陰口かよ。」
「いいや、なまえが悩んでたみたいだから相談に乗ってただけだよ。」
「僕は面白そうだから傍聴してた。」
「ジェームズは一回傍聴の意味辞書で引いておいで。お前めっちゃ口挟んでたじゃん。」
「いいじゃないかなまえ。そんな細かいこと言ってるといつまで経ってもちんくしゃのままだよ?」
「てめっ…最近言わなくなったと思ってたのにまた言ったな。ちんくしゃって。」
「そうだシリウス、ちょうどいいから今なまえに謝っておいたらどうだい?」
スパンとジェームズの頭をはたいてる間にリーマスが人当たりのいい笑顔でそう提案した。
謝っておいたらって…そんなんでこいつが素直に謝るとは到底思えない。
「は?なんで俺が。」
「リーマス、むりむり!シリウス坊ちゃんはお子ちゃまだから謝るとかできないって!大丈夫。あたし別にぼんぼんの考えなしな戯言なんか気にしてないから!」
「えらく高いところから物言ってんな。」
「実際高いですから。」
そしてあたしとシリウスはしばし火花を散らして睨み合った。
先に目を逸らしたのは向こう。(勝った!)
ジェームズが空気を読まずに大きなあくびをしたのとほぼ同時だった。
「……そろそろ部屋に戻らないかい?もう遅いしさ。」
「そうだね、もう寝よう。ほら行こうシリウス。」
「…………。」
シリウスは不機嫌そうにしながらもリーマスに腕を引かれるままに部屋へと進んだ。
視界の端でジェームズがリリーにおやすみのキスをねだっているのが見えたので、もう一度頭を殴っておいた。
おやすみと微笑むリーマスにおやすみと手を振って、あたしとリリーも各自部屋へと戻る。
部屋のドアを閉め、念のために防音呪文をかける。
これがホグワーツに来てからのあたしの週刊だ。
万が一リドルと話してるのを他の生徒に聞かれてしまったら都合が悪い。
「………リドル?」
あれ?おかしいな、リドルが出てこない。
いつもならあたしが呪文を書け終わったらすぐに出てくるのに。
あたしはリドルの日記を閉まってる机の引き出しを開けた。……が、
「え、ない………」
ない
ない
どこにもない!
引き出しを引っ張り出し床に中身をばら撒いても黒い本なんて出てこない。
イヤイヤ待てよ。落ち着いて思い出せあたし!
……そうだ、今日は呪文学があったから魔力が足りなくなったら困ると思ってお弁当代わりに持ってったんだ!
思い出すや否やあたしは学校用のカバンに手を伸ばした。
そう、案の定授業終わった後ちょっと魔力足りなくて、こっそり日記をカバンから出した。
(それでその後どうしたっけ…!?)
カバンの中身も引き出し同様ばら撒いて日記を探した。
数冊のノートと細身のペンケース、お菓子の包み紙が散らばる。
確か日記をカバンから出して…リリーに声を掛けられたんだ。
それでちょっと焦っちゃって慌ててカバンに日記を入れて……入れたはずだよね?!
床に散らばった荷物を掻き分けて黒い日記帳を探したけれど、それらしきものはさっぱり見当たらない。
どこかに落としてしまったのだと気付いた時、あたしは体から一気に血の気が引くのを感じた。
もし既に誰かに拾われてしまっていたら?
もしあたしの手に戻ってこないようなことになっていたら…?
そしたらあたしは魔力が尽きて死ぬか、そうなる前に卿の元へ強制送還…いや、その場合は多分卿に殺されるからどっちにしろ死ぬ!
とにかく!こんなところで絶望してる場合じゃない!!
探しに行かなきゃ!!!
あたしはローブを羽織り杖を掴んで部屋を飛び出した。
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