OPlong
□05
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散歩と言う名の地獄から無事生還したあたしは、船の上に戻っても命の恩人であるパイナップルさんにしがみついていた。
この人と一緒にいれば幾らか安全だ。
「なんかマルコに懐いてんな……」
あたしをここに拐ってきた男が不満そうに口を尖らせて言った。
人を誘拐してヘンな名前つけて首輪つけて引っ張り回すような男に誰が懐くもんですか!
あたしはパイナップルさんの肩に回した手にギュッと力を込めて。
するとパイナップルさんはポンポンとあやすように背中を優しく叩いてくれた。
「お前には労りってもんが足りねえよぃ。いいか?こいつはまだ赤ん坊なんだ。こいつにとって何が薬で何が毒かちゃんと考えろぃ。」
「………じゃあおれのガキの頃されたみてぇに風船つけてどっかに飛ばせば強い犬に………」
「お前と一緒にすんなよぃ。」
あたしをあやしていた手がゴンと男の脳天にチョップをかました。
男はダメージを受けた頭を押さえていってー!と喚く。
ちょっといい気味。
「こいつの親になるならお前はいろんなもんを与えてやんなきゃなんねぇんだよぃ。厳しさばっかじゃなく、優しさとか慈しみだとかをよぃ。こいつはおもちゃじゃねぇ、お前が責任を持たなきゃなんねぇ命だよぃ。」
おぉ……なんか良いこと言うなパイナップルさん。
「………………マルコの説教ジジィ。」
二度目の鉄拳が男の脳天に下された。
男は甲板に沈みピクリとも動かなくなった。
「バカなこと言ってるヒマあるならこいつ風呂にでも入れろぃ。」
は!?
「さっき海に入ってただろぃ。ちゃんと真水で流してやんねぇと後がひでぇよぃ。」
え、ちょ、お風呂!?
待って待ってそれはホントに勘弁してください!!
さっきまであたしの救世主だったパイナップルさんは一瞬にして魔王に変わった。
あたしを抱いてあやす優しかった手も今やあたしを地獄へ誘う悪魔の手にしか見えない。
今は獣の姿とは言えあたしだって嫁入り前の女の子。
男に、しかも海賊にお風呂に入れられるなんて冗談じゃない!
必死の抵抗も虚しく、あたしは起き上がった男に引き渡された。
焦るあたしとは対照的に男はパイナップルさんと「犬用シャンプーまだあったっけ?」なんて呑気な会話を交わしてる。(っていうか犬用シャンプーで洗う気!?髪がバサバサになる!)
こうなったら最後の手段……攻撃して逃げるしか…!
あたしの持てる武器と言えばこの子供ながら鋭い爪と牙。
この爪で思いっきり引っ掻こうか……いや、でもライオンの爪ってけっこうでかいよ。
大人ほどの威力はないけど、カッターナイフくらいには匹敵する。
うーん……これは痛いだろうなぁ………
やっぱ噛んで怯んだ隙に逃げようか!
でもこの人上半身裸なんだよね……服越しならまだガマンできるけど生肌噛むのってなんかイヤ………
「じゃあ行ってくる。」
「!」
あたしが攻撃を躊躇ってる間に男はついにお風呂へ向かうべく歩き出した。
あぁもう迷ってる場合じゃない!!
あたしは意を決して男の腕にかぶりついた。
「うおっ!」
「がうううぅっ!!」
いきなり噛みつかれた男は驚いてあたしを取り落とした。
ぼてっと甲板に落ちたあたしはまだ散歩の疲労が残る体に鞭打ってヨタヨタと船の縁を目指す。
このまま家まで逃げ切ればこっちのもんだ!
「い…って〜………こら!!ステファニー!!!」
「!」
背後の男からの怒号に吹き飛ばされたような錯覚を覚えた。
そんなことあるハズないのに、あたしはそのまま前のめりに倒れ意識を飛ばした。
「…………なにやってんだよぃ。」
「あちゃー、やっちまったか。」
おれは倒れたステファニーを抱き上げ頭を掻いた。
噛まれた腕には血が滲んでる。
ちょっと痛かった。
「こんなちっせぇガキ相手に覇気使うなんざ二番隊隊長の名が泣くよぃ。」
「だからわざとじゃねーって!」
ステファニーは完全にきを失っていてしばらく起きそうにない。
腕の中でぐったりしてるステファニーを見るとやっぱ悪いことしたかなと小さな罪悪感が胸に生まれた。
「もういいからそのまま風呂に入れちまえ。どうせ起きたらまた暴れだすよぃ。」
「うーん……そうだな。行ってくる。」
あれだけ嫌がってたことを本人の意識がないうちに勝手にやってしまうのは悪いかなという気がしたが確かに今がチャンスだと思い直し、おれは風呂に向かった。
風呂上がりに目を覚ましたステファニーの絶望したような顔を、おれはなかなか忘れられない。
そこはやはり親として
(やっぱしつけも重要だよな。)