ハリポタ
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バン!なんて生易しいものじゃない。
それはガタァーン!!とドアの蝶番を壊さんばかりの勢いで、その音をたてた主の苛立ちを伝えるには充分すぎるほどだった。
壁際に押さえ込まれたあたしの視界は何かで塞がってる。
それがシリウスによるものだと気付くのにはたっぷり数秒かかった。
彼は壁に背中をつけた状態のあたしを両腕で閉じ込め二人を透明マントでスッポリと隠している。
シリウスの心臓の真ん前。
その鼓動の音や上下する肺の動きまで感じ取れる距離にあたしは自然と緊張した。
い、いやいや!相手はあのろくでなしシリウス!!
何ドキドキしてんだあたし!目を覚ませ!!
高鳴る鼓動を抑えてそっと上を向けばシリウスと目があった。
シリウスは目配せで逃げるぞ、と合図を送ってきた。
フィルチは校則違反の生徒を探すのに躍起になってドアを開けたままにしてある。
逃げるなら今がチャンスだ。
あたしたちは身を寄せあったまま物音をたてないよう細心の注意を払って教室を後にした。
あたしたちは透明マントを脱ぎ去り全力で廊下を駆け抜けた。
何か紙切れを広げ走るシリウスの後についていけば誰にも会わずに太った淑女の肖像画の前までたどり着くことができた。
たぶんあの紙切れが忍びの地図なのだろう。
真夜中に起こされ機嫌の悪い淑女に合言葉を告げ談話室へと転がり込んで、あたしたちはようやく安堵のため息をついた。
「はっ……はっ………み、見つかるかと思った………っ!」
「ったく……どんくせーんだよお前は!」
「シリウスが性格悪いことするからでしょ!」
息が整うのも待たず、口を開けば自然と口論が始まる。
あ、ダメだ。今怒鳴ったせいでムダな体力使った。
ちょっと酸欠。
それにしても、ジェームズとリーマスは談話室で待ってるだろうと思ったのに、誰もいないということは自分の部屋で待ってるのだろうか。
透明マントのお礼を一応言っておきたかったけど……いないんじゃしょうがないか。
明日でいいや。
やっと息を整え終えたあたしは最後にはーっと長いため息をひとつついた。
あたしより幾分か早く回復したシリウスがあたしをじっと見てることに気づいたのはその直後だった。
「………………なに。」
「……スカート捲れてんぞ。」
「え?ああ、そりゃどうも。」
言われてスカートを軽く直すと後ろの方で捲れてたスカートが落ちる感触がした。
「どうもって……もうちょい色気のある反応できねぇのかよ。」
「色気って………別にぱんつ見えてたわけじゃあるまいし。」
「見えてたぞ。」
「!!!?」
あたしは咄嗟にスカートの裾を押さえた。
うそでしょ!?見られた!?
今更スカート押さえても遅いけど………あー!こんなことなら下にスパッツでも履いとけば………って……ん?
「………って見えるわけないじゃん!下にスパッツ履いてるっつの!!」
「鈍っ。気付くの遅ぇよ。」
「るっさい!」
「顔真っ赤。」
「もーホント黙って!」
シリウスはニヤニヤと意地悪く笑った。
巷ではクールだのニヒルだのと評判のその笑みも、あたしにしてみればピーブスのそれとおんなじだ。
是非とも二人を並べて完全に一致だろと彼のファンを説得して回りたい。
「………………おら。」
「!」
ピーブスと同じ笑みの男からポイと投げられたのはリドルの日記。
それはきれいな弧を描いてあたしの手にぽすんと収まった。
「しょうがねぇから返してやる。面白いもん見れたしな。」
「……何よ偉そーに。どうせ興味なくなっただけなんでしょ。飽き性め。」
「はっ」
最後に鼻で笑ってシリウスは踵を返した。
あ、部屋に帰るんだ。
そう思ったのと同時に有り得ない言葉が口を突いて出た。
「………あ、りがと……。」
「!」
小さな声だったけど、それはしっかりシリウスの耳に届いて彼はこっちを振り返ろうとした。
「…ってジェームズに伝えといて!透明マントのこと!」
途端にあたしは何だか恥ずかしくなって苦し紛れのセリフを早口でまくし立て、逃げるように女子寮への階段を駆け上がった。
当然シリウスの顔なんか見る余裕はなかったから、あたしはその時の面食らったような彼の顔を見ずじまいに終わった。
そしてようやく一人になったあたしは部屋でたっぷりとリドルの説教を受けるのだった。
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