ハリポタ

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食堂へ行くとあたしに気づいたリリーが手を振った。
それを見つけてあたしも手を振り返す。


「おはようなまえ、遅かったじゃない。」

「あはは、寝坊しちゃった、」


ヘンな夢も見ちゃったし、と言いかけてあたしは口をつぐんだ。
卿が出てきた夢。あの夢のことは早く忘れなくちゃ。

腰を下ろしながらクロワッサンに手を伸ばすと、リリーの隣にジェームズがいるのに気付いた。
今日はあたしにジャマされずにリリーの傍にいられてご満悦のようだ。


「やあなまえ。もっとゆっくり寝てても良かったのに。」

「ジェームズが授業で代返してノート取って過度にリリーに近付かないならそうするんだけどね。」


相変わらずだな、この男は。
内心呆れながらパンを口に運びかけた所で、あたしはふとある人物にじっと見られていることに気付いた。


「……………あ、おはようリーマス、ピーター。」

「ああ、おはようなまえ。今日は寝坊したの?」

「うん。昨日は夜更かししちゃったしね。」

「………………おい。」


あたしは視線の送り主をムシして、あえてその奥にいるリーマスとピーターに挨拶した。
するとそいつ……シリウスが不機嫌そうに口を開いた。


「なに。」

「俺を無視すんなよ。」

「無視してないし。先にリーマスたちが目に入ったから挨拶しただけ。」

「俺のほうが手前にいるのにか。」

「あれ、シリウスいたの?」

「それを無視って言うんだよ、ちんくしゃ。」

「ちんくしゃ言うなナルシスト!」


なんなのコイツ朝っぱらから!
昨日ちょっとでもこいつに感謝の気持ちなんて持っちゃった自分ばか!!

あたしはぷいとそっぽを向いて食事を再開した。
イライラしながら食べるごはんは味がなくておいしくない。
それからあたしは食堂を出るまでシリウスのほうを見なかった。

それでも彼はずっとあたしのことを見ていた。














「……………ブラック、か……」

「ん?リドル、シリウスのこと知ってんの?」


ある日の夜、あたしはリドルにシリウスがウザいとグチってた。

依然やめる気の無いセブルスいじりもさることながら、最近シリウスに見られてることが多い…気がする。
そのくせ突っかかってくることは少なくなったものだから、なんか不気味だ。
視線に気付いて「何か文句あんの」と言えば「別に」とそっけなく返事してそれで終わり。
これはこれでムカつくし、いつものシリウスと違うから調子が狂う。

そんなことをリドルに言っても仕方ないとは知っているけど、このもやもやした気分の捌け口が欲しかったので彼に犠牲になってもらうことにした。
すると意外にもシリウスを知ってるような口ぶり。


「数少ない純血の貴族だからね。ブラック家は支配下に置きたい家のひとつだ。」

「あー、そっか。あいかわらずリドルの頭は悪いことでいっぱいですか。」

「褒め言葉だね。」

「褒めてないけどね。」


やっぱりリドルは卿だ。
見た目年齢はあたしとかわらないぐらいなのに、考えはもう真っ黒。
あたしは呆れてため息をついた。


「話を聞いてると彼はなかなか死喰人の素質がありそうだ。グリフィンドールというのは気に入らないが、家柄とその影響力は申し分ない。」

「シリウスが死喰い人?ありえないよ、それは。」

「へぇ、なぜそう思うんだい?」

「だってありえないもんはありえないもん。シリウスはああ見えて友達思いで正義感が強くて……」

「…………それで?」


尻すぼみになっていったあたしにリドルが続きを促した。
しかし続けようとすればするほど、思いつくシリウスの良い所はあたしの知ってるシリウスとはかけ離れていく気がする。


「えーと……忍耐強いし…あれ?シリウスってホントにこういうやつだっけ?」

「君の話を聞いている限りではそんな様子は微塵もなかったけどね。」

「……………とにかく!シリウスはホントは良いやつなんだから死喰い人にしようなんて考えないでよね!」


そうだ、原作のシリウスはすごくいいやつだった。
胸が熱くなるほど友情に厚いやつでリーマスが狼人間だってことも受け入れて動物もどきだって体得して過酷なアズカバン暮らしにだって耐え抜いて………とにかくあたしの知ってたシリウス・ブラックはすばらしい人物だった。
だからこそ、原作で彼が死んだ時あたしはあんなに泣いたんだ。
そう、原作の彼は…………


「………夢と現実は違うってことかなぁ…」


実際の彼は原作とは似ても似つかない。
あまりのギャップにここは本当は別の世界なんじゃないかとか、同姓同名の別人じゃないのかとか、たまに思ってしまう。
それとも、あれがこれからかっこいい原作のシリウスになっていくのだろうか。

あたしは寝支度をして部屋の明かりを消した。


(…………道のりは遠そうだ。)


布団を被って目に浮かぶシリウスの顔はどれも憎たらしいものばかり。
15歳の彼が大人になるのはまだまだ先の話だ。










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