ハリポタ
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「ジェームズ!ちょっとツラ貸しな!」
ルシウスにサインを拒否された日の夜、あたしは談話室でシリウスとチェスに興じるジェームズに仁王立ちして声をかけた。
「なんだい、なまえ?」
ジェームズは顔をこちらに向けながらもビショップを進めてシリウスの駒をポーンを倒した。
一瞬苦い顔をしてシリウスが次の手を考える。
「ホグズミートへの抜け道、知ってるでしょ?教えて!」
「!…………………抜け道?僕が?まさか、知らないよ。」
ジェームズは涼しい顔をして再びチェス盤に視線を落とした。
さすがジェームズと言った所か、普段おちゃらけてて不真面目なヤツだけど、肝心な所では頭の良さが光る。
でも彼が隠しきれなかった一瞬の戸惑いをあたしは見逃さなかった。
「ジェームズ、隠さないでよ!あんたが抜け道知ってるってことはもう知ってるんだから!ん?なんかややこしいな!」
「知らないものは知らないってば。………チェックメイト。」
「ああっ!ま、待てジェームズ!」
「ははっ、“待て”は君の得意技だろ?」
「あたしをムシすんなー!!」
あたしはマトモに話を聞かないジェームズにイライラして声を荒げた。
しかしジェームズはすっかり無視を決め込んで次のゲームの準備を始めている。
卿やルシウスのせいでもともと悪かったあたしの機嫌はもうサイアクだ。
「抜け道のひとつやふたつ教えてくれたっていいじゃん!けち!!」
「うるせぇな。しつこい女は嫌われるぞ。」
「そう、シリウスの言うとおり。」
「え、あんたたちに嫌われることがあたしにとって痛手になるとでも思ってんの?」
「……………………本っ当にお前は人にモノを頼む態度ってのが成ってねぇよな。」
「うまく情報を聞き出そうという気概が欠片も感じられないよ。なまえはスパイにはなれないね。」
「何よもーっ!友達でしょ!?ぐだぐだ言ってないで助けてよ!」
「お前言ってること無茶苦茶すぎ。」
そう言いながらシリウスがポーンをひとつ前に進め、またチェスが始まった。
あたしの話を聞くつもりは完全に無いらしい。
あたしは苛立ちを吐き出すようにゆっくりため息をついて二人に背を向けた。
「協力してくれたら、ジェームズは優しい男だってリリーに教えようと思ってたのになー………」
「なまえ!!僕が知ってることなら何でも教えてあげるよ!」
「おい。」
「へぇ〜、それでサインを拒否されたのかい。」
「意外と懐が小せえな、マルフォイの親父。」
二人の協力をあおぐにあたって、あたしは事の経緯を説明した。
もちろん卿の名前なんて出せないから、卿を全部ルシウスのお父さんに置き換えて。
結果、ルシウスのお父さんが悪者になっちゃったけど、元々良い噂の立つ人物ではなかったみたいだから別にいいだろう。
「ま、こっそりホグズミートに行くなんて僕らにとっちゃ朝飯前さ!」
「きゃー、さすがジェームズ!かっこいー!」
「はっはっは!もっと褒めてくれてもいいよ!できればリリーに聞こえるようにね!」
「あほか………」
ひとしきり称賛を浴び終えるとジェームズは僅かに声を潜め作戦を立て始めた。
考えてる内容は決して誉められたものじゃないけど、今はその口元に浮かぶ余裕の笑みが頼もしい。
「作戦は単純明快!透明マントを使って抜け道からホグズミートへ行くだけさ!」
「で?で?その抜け道はどこ?」
「4階の廊下さ。あそこに隻眼の魔女の像があるだろう?」
ジェームズはわざとらしくさらに声を小さくして言った。
隻眼の魔女の像か……そんなのあったっけ。
城の中には至る所に様々な像や絵画が飾ってあるから、一々どこにどんな像があったかなんて覚えていない。
「大丈夫、シリウスが一緒に行くからね。」
「え。」
「えって何だよ。嫌か。」
「嫌っていうか……だってシリウスは嫌じゃないの?」
以前リドルの日記を取りに行くのにジェームズがシリウスを同行させたことがあったけど、その時シリウスはすごく嫌そうだったし、あたしも嫌だった。
それなのに今回は嫌がるどころか、当然のように一緒に行くことが決まってしまってる。
「お前一人で行かせて大事なマント無くされても困るしな。」
「そんなら別にジェームズかリーマスでも………」
「あーうだうだうるせぇな、俺が行ってやるって言ってんだからありがたく思っとけ。」
「ええぇぇ??」
なにそれワケわかんない。
しかしシリウスはこの議題は終わりとでも言わんばかりに背もたれに体を預けている。
こいつあたしがキライじゃなかったの?
「……………じゃあ決まりだね!決行は明日!なまえはちゃんとリリーにこのことを伝えておくんだよ。」
「はいはい、ジェームズの武勇伝ね。」
「それもだけど、君がホグズミートに行けることをちゃんと言っとかないと。きっと喜ぶはずだからね。」
「…………ジェームズのくせにかっこいいこと言ってる…………!!」
「ジェームズのくせにって何だい!僕はいつもかっこいいよ!」
キメ顔を作ったジェームズにあたしは思わず笑ってしまった。
するとジェームズは拗ねたように口を尖らせたが、それも何だか可笑しかった。
それからあたしたちは集合場所や時間を決めて、各々の部屋へと戻った。
あたしは部屋に戻る途中リリーの居る部屋に立ち寄ってホグズミートへ行けることを伝えた。
ジェームズの言ったとおりリリーはすごく喜んだ。
悔しいけど、ジェームズは何をすればリリーが喜ぶかを理解してるようだ。
「そろそろあたし、リリーとジェームズの仲を応援する覚悟を決めるべき?」
「そもそも人の色恋沙汰に首を突っ込むもんじゃないよ。大抵ロクなことにならないからね。」
「うわ、リドルってば大人な発言!」
あたしは部屋に戻ってから明日に備えてリドルから魔力を貰ってた。
そうだ久しぶりの外出なんだからちょっとオシャレしようかな!
あたしは浮き足たってクローゼットの中を物色し始めた。
初めてのホグズミート!ああ、楽しみだなぁ!
「そんなにホグズミートに行きたかったの?」
「もちろん!だって面白いものがたくさんあるんでしょ?あーどうしよう!楽しみで眠れないかも!」
「…………………ヴォルデモートに逆らってまで?」
それは、はしゃぐあたしを止めるのには十分な一言だった。
見ればリドルはまだ顔から笑みが消えきらないあたしを冷ややかな目で見ている。
「客観的に述べさせてもらえば、君は行くべきじゃない。彼の意に逆らった者がどんな罰を受けるか知らないわけじゃないだろう?」
あたしはゴクリと生唾を飲んだ。
卿がどんな残虐な仕打ちができるかは勿論知っている。
でもリドルがそれを口にする理由はあたしを心配してるからじゃない。
どうせ彼もまた、あたしが卿に反抗してホグズミートへ行くのが気に入らないだけだ。
「だからこそ、あたしは行くの。あたしは卿に支配されないってこと、示してやるためにも。」
そう、どんな罰を振りかざしたって、卿はあたしを縛ることはできない。
だってあたしがそれを望んでいないもの。
「それに、ここにいれば絶対安全なんだから!卿なんか全然怖くないもんねーっ!」
「そう、分かってないみたいだから言うけど、君は明日その絶対安全な城を出て自ら危険地帯へ行くんだよ。」
「え?」
両手を広げてベッドにダイブすると、リドルが簡単な間違いを指摘する教師のように言った。
あたしは何が間違ってるか分からずに目を丸くする。
「ホグズミートはホグワーツの”外”だ。覚えておいたほうがいい。」
そう言ってリドルは目を細めて怪しく笑った。
あ、そっか。ホグズミートは町だからホグワーツの防御壁の範囲外なんだ。
でも、だからって…………
「だからって卿がそんな所に来るわけじゃあるまいし。」
「…………忠告はしたからね。」
意味深な言葉と怪しい笑みを残してリドルはゆっくりとフェードアウトした。
あたしはベッドに寝転がったまま頬を引きつらせ、そこに冷や汗が伝った。
卿がホグズミートに来るかもしれない?
いやいやそんなばかな。
仮にも今をときめく闇の帝王だよ、あの人。
そんなほいほいと人前に姿を現すなんてこと…………
「ないない。考えすぎだって……。」
あたしはそう自分に言い聞かせ冷や汗を拭った。
そうだ、明日は存分に遊ばなきゃいけないんだから早く寝よう。
リドルの言ったことなんて気にしないほうがいい。
どうせあたしを不安がらせて面白がってるだけだよ。
あたしは部屋の明かりを消してベッドに潜り込んだ。
リドルの言葉が頭の中で何度も繰り返し再生されて、なかなか消えてはくれなかった。
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