ハリポタ

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次の日、あたしとシリウスは何食わぬ顔でリリーやジェームズたちの乗ったホグズミート行きの汽車を見送った。
さも、今日は寮でのんびり過ごすのだと言わんばかりに各々の自室へ戻ると、素早く支度を整え談話室で落ち合う。
幸い談話室には誰もいなかったが、あたしたちは用心に用心を重ね素早く透明マントを被った。


「いいか?あの抜け道は生徒はもちろん教授にだって知られていない。誰にも見られるわけにはいかねぇんだ。この前以上に慎重に行くぞ。」

「オーケィ。」


そっと寮を抜け出して、あたしたちは例の石像へと向かった。
休日で人も疎らな城内をこっそりと進むのはかなり簡単だった。
これなら透明マントも要らなかったかもしれない。


「バカお前。この抜け道はすげえ重宝してんだ。どれだけ用心にしても足りねえくらいだよ。」


それを言うとほぼ真上からシリウスの声が降ってきた。


「ふーん。シリウスって意外と臆病なんだ。」

「テメーみたいに鈍くせーお荷物がなけりゃ、マント無しでも余裕すぎるくらいだけどな。」


悪態をつきあいがなら、あたしたちは難なく石像の所まで辿り着いた。
シリウスは辺りに注意しながら杖を取り出し、そっとその先端を透明マントから出して石像を軽く叩きながら小声で何か呪文を唱えた。
すると石像はゴゴゴゴゴ……と重低音を響かせて縦に割れ、その奥に人ひとりがやっと通れるほどの穴が現れた。


「わぁお…………」

「何ボーッとしてんだ、さっさと行けよ。」

「え!あたしから!?」

「当たり前だろ。テメー一人残したらどんなヘマするか分かったもんじゃねぇ。」

「でも…………!」


あたしはぽっかりと口を開ける暗い穴を覗きこんだ。
底まで光の届かないそれは深さがどのくらいあるのかさえ分からない。

ぶっちゃけ、怖い。

そんなあたしの気も知らず、シリウスは忍びの地図を確認しながらぐいぐいとあたしの肩を押す。


「もたもたすんな、さっさと行け。今なら人来ねぇから。」

「わっ、ばか押さないでよ!行くタイミングくらい自由にさせろ!」


すぅっと一回深呼吸してから透明マントから抜け出し、穴へと片足をかけた。
危険は無いはずと分かっていてもやはり本能的な恐怖心が出て一瞬躊躇ったけど、あたしは意を決してその穴へと飛び込んだ。


「うひゃあああぁぁぁ!!」


どたっ


滑り台みたいな穴の中をけっこうな速さで滑り落ちたあたしは間抜けな音と共に底へとついた。
そこはそれまでの穴と変わらず真っ暗な通路だった。
狭いけれどさっきの穴ほどではない。
ちょっと屈まなくちゃいけないけどふつうに歩いて行ける広さだ。

あたしのすぐあとにシリウスがストンと慣れた様子で着地した。


「はぁ…相変わらず狭いなここは。」


あたしより身長の高いシリウスはここがかなり窮屈なようだ。
彼は文句を言いながら出したままの杖に明かりをともした。
ぼうっとした杖明かりにシリウスの顔が照らし出される。
その顔に不覚にも、思わず、見惚れてしまった。

なんというか、だまってれば本当にこいつは男前だ。

伏せた目を縁取る長い睫毛とか、すっと通った鼻筋とか、ごつごつした手とか。
それらを見てると、ふと、その瞳と視線がぶつかった。
するとたちまち整ったきれいな顔は憎らしい笑みを浮かべる。


「なんだ?俺に見惚れてたか?」

「ううん。顔だけはいいのに勿体ないなーと思って。」

「んだとコラどういう意味だ。」

「そういう意味だよバカ。」

「ワイルドでかっこいいだろうが。」

「ほんとシリウスって残念だよね。」

「お前は顔も中身も残念だけどな。」


そんなやり取りを繰り返し、あたしたちは通路の端―出口へと辿り着いた。


「ここが終点?」

「ん。出る時は透明マント被るぞ。」

「はーい。」


あたしたちは学校を出た時のように頭からマントを被って2人でいっしょに跳ね戸をそっと押し開けた。
通路の外は埃っぽく暗い倉庫だった。
シリウスはそこに誰もいないことを確認すると素早くあたしの手を引いて倉庫へと出た。
そのまま慎重に店内へ続いているらしいドアへと近づき、音もたてずにほんの少しだけ開けた。

そして次の瞬間、あたしは色の洪水に押し流されそうになった。

シリウスの肩越しに飛び込んできたのは鮮やかにきらめく甘い香りのお菓子たち。
休日を楽しみに来たホグワーツの生徒で溢れかえり店内はとても賑やかだ。
あたしはできるだけ多くを見ようと、前に立つシリウスから身を乗り出して目を凝らした。


「すごい…………」


瞬きも忘れてあたしはつぶやいた。
初めてホグワーツに訪れた時と同じくらい……いや、それ以上の感動をがあたしを包んでる。

ふと、レジに並んでいた人の列が途絶えて店員がカウンターを離れた。


「今だ。出るぞ。」

「わっ」


背中で声が聞こえた直後にあたしは半ば抱きかかえられるように倉庫から飛び出した。
ドアのしまるパタンという音は雑踏にかき消され、あたしたちは見事ホグズミートへと到着したのだった。


「リリー!」

「なまえ!ちゃんと来られたのね!」


誰にも見つからないようにこっそりと透明マントを脱いだあたしたちは店内で待っていたリリーたちと合流した。
作戦を聞いたらリリーは校則違反だと怒るかと思ったけれど、彼女は意外と寛大だった。
リリーはあたしがどれだけホグズミートへ行きたがっていたことを知っていたんだ。


「リリー!ホグズミートってすごい!夢の国みたい!」

「ふふ、なまえったらはしゃいじゃって。」

「子供みたいで恥ずかしいじゃないか。ちょっと黙りなよ。」

「楽しいことを素直に楽しめないのが大人だってんなら一生こどものままでいいもん!」

「いっしょにいるこっちが恥ずかしいってんだよ。置いてくぞ。」

「うえっ」


ハニーデュークスで思う存分はしゃいだあたしはシリウスに首根っこを掴まれて店の外に引きずられて行った。

それからゾンコの店に行ったりさっき買ったお菓子を食べながらぶらぶら散策したりして、心行くまでホグズミートを堪能したあたしたちは最後のシメに三本の箒でバタービールを飲むことにした。





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