ハリポタ

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次の日の朝、ジェームズ、リーマス、ピーターの3人は朝食の前に医務室に来ていた。


「やあ階段から落ちたシリウスくん!気分はどうだい?」

「おー…ジェームズ……階段から落ちた?なんだそれ。」


まだ体が痛むのかシリウスは顔をしかめてベッドから体を起こした。
マダムは今は席を外しているようだ。
ジェームズは無遠慮にベッドにぼすんと腰掛けシリウスに着替えやら今日の分の教科書やらを投げ渡した。


「聞きたいのはこっちだよ。なまえに何があったか聞いても何も答えてくれないんだ。」

「なにも……?あいつがか?」

「何か話したくないことでもあるみたいだったけど。」

「ほ、本当は何があったの、シリウス…?」

「……………」


シリウスは昨日の出来事を思い返した。
スリザリンのマルフォイに魔法で吹っ飛ばされ、意識を飛ばしてしまった。
だからその後何があったのかシリウスは知らない。

それに、知っていたとしても、


「あいつが知られたくないことなら、俺が言うわけにはいかねぇよ。」


シリウスはぶっきらぼうにそう言うとベッドから下りて制服に着替え始めた。


「え?で、でも……」

「ははっ、そう言うと思ってたよ。」


狼狽えるピーターの声をジェームズの朗らかな声が遮った。
彼はもはや事の真相を知ることに執着してはいないらしい。
そしてそれはリーマスも同様のようだった。


「そうだね。それにどっちにしろなまえが知られたくないことをシリウスは知らないさ。」

「ん?どういうことだいリーマス。」

「もしシリウスが何か知っているのならなまえは先に来て口止めしようとするはずだ。そうしないってことはその必要がない……つまりシリウスに聞いてもムダってことだよ。」

「はーん、なるほどね。じゃあシリウスは重要な場面に出くわす前に気絶しちゃったってワケだ!」

「同じ目に遇わせてやろうかクソメガネ。」


やーんシリウスが怖いよー、とおどけて飛び退くジェームズをシリウスはネクタイを結びながらジト目で見ていた。

昨日……自分が気を失ってからマルフォイとなまえの間に何があったのだろうか。
ただ規則を破ってホグズミートへ行ったことを咎められただけなのなら隠すことはないはず。
それどころか彼女の性格なら自分たちに協力させてマルフォイに仕返しすらしかねない。


(とりあえず、聞いてみるだけ聴いてみるか………)


一緒にあの場にいたのだから、返答の有る無しはともかく、そのくらいの権利はあるはずだ。
シリウスは友人たちと共に医務室を後にし、なまえのいるであろう食堂へと向かった。





「休み?」

「ええ、気分が悪いんですって。」


シリウスは食堂に着くと真っ直ぐにグリフィンドールの女子グループのほうへ近づいた。
しかしそこになまえの姿は無かった。
いつも彼女と一緒にいるリリーに聞けば、体調を崩して今日は寮の自室で休んでいるとのこと。

出鼻を挫かれたシリウスはため息をついて少し遅れて来たジェームズたちと一緒に席についた。


「なまえが休みだって?珍しいこともあるもんだね。」


バターをたっぷり塗ったパンを頬張りながらジェームズが言った。


「あの子ホグズミートから帰ってきてから様子がおかしかったわ。あなたたち何か知らないの?」

「そんなの僕たちが知りたいくらいさ。なまえに聞いても何も言わないんだから。」

「ジェームズ!」

「やっぱり何かあったのね!?シリウスが医務室にいたことと関係あるの?」


ジェームズが自分の失言に気付いたときにはもう遅く、リリーは血相を変えて隣に座る彼に詰め寄った。
しまったとばかりに口をつぐむジェームズをシリウスは呆れた目で見ている。
その視線が助けを求めるようなジェームズのそれとぶつかるのにそう時間はかからなかった。


「……やめろエバンス。俺らも何があったのか把握してねぇし、何よりなまえが知られるのを嫌がってんだ。とりあえず今は様子を見るしかねぇだろ……」

「そうそう!シリウスに賛成!」

「そんな………」


シリウスの出した助け船に乗っかるようにジェームズは手を上げて早口で賛成した。
ジェームズの襟首を掴んでいたリリーの手が緩む。

シリウスは頬杖をついてそっぽを向いき、今ごろ部屋に閉じこもっているであろう少女を思った。

今日はとりあえず放っておいてやったほうがいいだろう。
そうすれば、いつも底なしに明るいあいつのことだ。
明日はきっとまたいつもどおりになっているだろう。

そう一人考えていたシリウスは、迫り来るリリーの鉄拳に気付けなかった。


「ふざけんじゃないわよー!!」

「ぶっ!!」


リリーの拳をモロに食らったシリウスはそのまま後ろ向きに椅子から転げ落ち、後ろの席に座っていたレイブンクローの生徒にまで被害が及んだ。
シリウスは殴られた頬をおさえ、ぶつけた背中やら腰やらの痛みに耐えながら立ち上がってリリーを睨んだ。


「な……なにすんだよ!」

「こっちのセリフだわ!何が様子見よ!それって結局なまえのことほっとくってことじゃない!」

「違ぇよ!今はそっとしといてやれって言ってんだ!」

「だからそれとほっとくことのどこが違うって言うのよ!もっともらしいこと言って、あんたホントは面倒事に関わりたくないだけなんでしょ!?」

「なっ………!」


リリーの罵声にシリウスは顔を歪ませた。
それが怒りからなのか図星を突かれたからなのかは判断できない。
リリーは自分を睨むシリウスにも負けない剣幕でさらにまくし立てる。


「あの子、自分が辛いのを絶対に表に出さないのよ?あなたにあんな酷いこと言われた時だって、内心傷ついていたはずなのに強がって笑ってたじゃない」

「……………!」


シリウスは何も言い返せなかった。
強がってた?あいつが?
じゃああの時、平気そうにしていたけれど、もしかして自分が思っていた以上に傷つけていたのだろうか。

”薄汚ねぇジャップが………”

ぐるぐるとあの時の場面がシリウスの頭の中で繰り返される。
シリウスの中に初めてあの時言った言葉に対する後悔が生まれかけていた。

黙り込んでしまったシリウスをリリーはキッと睨み付けた。
感情の高ぶりからか、その翡翠の瞳から涙がひとつ落ちる。


「とにかく、今すぐなまえのとこに行って。」

「行って何しろってんだよ……事情もわかんねぇのに……」

「それでもあの時なまえと一緒にいたのはあんたなの!あの子を守れなかった詫びでもいれてきなさい!」


そう言ってリリーはポケットから杖を取り出しシリウスに向けた。
シリウスの顔がサッと青くなる。
彼女の魔法の腕は彼だってよく知っているのだ。


「ちょ、待て………!」

「ウィンガーディアム・レヴィオーサ!」


制止も虚しく、次の瞬間シリウスの体は食堂から弾き出された。
廊下を数回転してから止まり、目が回るのを何とかこらえながら立ち上がると食堂の扉は既に固く閉ざされていた。


「他の生徒に迷惑だろこれ…………」


シリウスはため息をつくと諦めたように食堂の扉に背を向けた。


(守れなかった、か……)


シリウスは今リリーに言われた言葉を頭の中で繰り返した。
確かに昨日なまえを庇うこともできないまま早々と昏倒してしまったのは他でもない自分だ。
理不尽な気もするが、それは事実。

とりあえず、向かうはグリフィンドール寮。
こうなったらダメもとで何があったのかだけでも聞き出そう。











シリウスを追い出したリリーは鼻息荒いまま席に座った。


「ふんっ、まったくもう!」

「さすがだねリリー!啖呵を切る君もステキだったよ!」

「女グセは最悪なくせに変なとこでヘタレなんだから!イライラしちゃう!」


リリーはまだプリプリと起こったまま食事を再開した。
その斜め前でリーマスが苦笑し、ピーターはシリウスの飛んでいった方とリリーの怒り顔を見比べてオロオロしている。


「シリウスにとってなまえは特別ってことなんじゃない?」

「え、何よそれ……まさか………!」


リーマスの言葉にリリーはサッと青ざめた。

あの男に特別な存在なんていうのも信じられないけど、その相手がよりによってなまえだなんて、もっと信じられない。
なまえがあいつの毒牙にかかるなんて想像もしたくない。

ともすればシリウス暗殺計画を立てかねない形相になってきたリリーを見てリーマスは慌てて言葉を付け加えた。


「単なる憶測だよ!まだそうと決まった訳じゃない。」

「ああでも……やっぱりあいつ一人で行かせるべきじゃなかったかしら………もしなまえの身に何かあったら……!」

「心配ないよリリー、彼はそんな奴じゃないさ。」


狼狽えるリリーにフォローを入れたのはジェームズだった。
シリウスをよく知っているだけあって、その声は自信に満ちている。


「それにさっき君が言ったとおり、昨日なまえと現場にいたのはシリウスだけ……なまえが何か話すとしたら彼が一番可能性が高いと思うし。大丈夫、君の判断は間違っちゃいないよ。」


そう言ってジェームズは悪戯っぽくウインクした。
その笑顔に毒気を抜かれたようにリリーはため息をついて肩の力を抜いた。


「そうね…たまには信じてあげようかしら。」


もしダメだったらぶん殴ってやるんだから。

そう言ってリリーはきれいに笑った。




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