ハリポタ

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リリーに食堂を追い出され寮へと向かっている間にシリウスはずっと考えていた。
女子は男子部屋に行けるが、その逆は部屋への階段にかけられた魔法に阻まれるため不可能だ。
それなのにどうやってなまえに会いに行けばいい?

結局、答えのでないまま寮の扉をくぐったシリウスだったが、思いがけずその扉の先になまえはいた。


「お……」

「あ……」


女子部屋に侵入する方法を考える必要がなくなり拍子抜けしたが、何の準備もないまま会ってしまったなまえに何と声をかければいいのか分からず戸惑う。


「……お、おはようシリウス!もう体は大丈夫?」

「お、おう………」


沈黙を破り先に口を開いたのはなまえだった。


「そっか、よかった。」


なまえはホッとしたようにそう呟いたが、そのまま会話は途絶えてしまった。
気まずい沈黙が再び二人を包む。


(なんだよこの空気………)


シリウスはいつもとまったく違うなまえに戸惑いを隠せなかった。
本人は何とかいつもどおり振舞おうとしているようだが、元気が無いのはシリウスから見ても明らかだ。
いつものように憎まれ口の一つでも叩いてくれればこっちだってイヤミの一つや二つ返せるのに、これでは調子が狂ってしまう。
かと言って、こんな状態のなまえに自分から無神経な言葉を投げつけるのはさすがに気が進まない。


「ごめんね。」

「!」


なまえが再び口を開いた。
不意を疲れたシリウスはびっくりして目を見開いたが、なまえの視線はシリウスのと交わることなく下方を彷徨い、その両手は気まずそうに制服の裾をいじっている。


「シリウスは関係ないのに、巻き込んじゃって……ルシウスにはちゃんと言っとく。」

「いや、別に………」


シリウスは気の利いたことの一つも言えない自分に嫌気がさしたが、それ以上にあることが気にかかった。

ルシウス

その名前が出てきたことに彼は違和感を覚えた。
確かにあの時自分に魔法を放ったのはスリザリンのルシウス・マルフォイだった。
それは間違いないはずなのに、この腑に落ちない感覚は何だ。


「…………じゃあ、あたしちょっと出かけるから…」

「………待てよ。」

「!」


シリウスは自分の横を通り過ぎようとするなまえの腕を掴んだ。
驚いてシリウスを見るなまえの目はよく見ると泣きはらしたように赤かった。


「泣いてたのか…?」

「ち、違うよ!昨日ちょっと夜更かししただけ……」


なまえはその目を隠すようにシリウスから顔を背けた。
自分を捕まえたままの手から逃れようと身をよじったが、シリウスはより一層手に力を入れそれを許さない。


「昨日、何があったんだよ。」

「!………………」


ビクリとなまえの肩が揺れた。


「ジェームズたちに話さなかったのは何でだ。ただルシウスが怒ったってだけの話なら隠すことないだろ。俺が気絶した後何があった?」

「………………」

「………言えないことなのか。」

「………ごめん。」


か細い、しかしキッパリとした声でなまえが口にした謝罪の言葉は、そのまま肯定を意味していた。
なまえの表情はシリウスからは見えない。


「巻き込まれて怪我までしたのに何の説明も無しなんて、納得できないと思うけど……どうしても言えない……。
言ったらあたし、もうここにいられなくなっちゃう………」

「は……お前何言って………」

「ホントにごめん……!」


なまえはシリウスの手が緩んだ一瞬の隙をついてその手を振りほどき、談話室から飛び出した。
静かになった談話室にシリウスだけが一人取り残された。


「くそっ………何だってんだ…」


シリウスは抑えられない苛立ちを傍にあった椅子を蹴って当り散らした。なまえが最後に言った言葉はあまりに小さくて聞き取りづらかったけれど、言えばここにいられなくなる、と確かにそう言っていた。


(どういうことだ?ホグズミートへ行ったことがそんなにマルフォイ家の怒りを買ったってのか?)


たったそれだけのことでか?
でも今はそれくらいしか見当がつかない。


「あーーくそっ!」


考えたところで答えは出ない。
真相はなまえの口から聞かない限り闇の中だ。

シリウスはイライラしながら時計に目をやった。
授業はもうとっくに始まっている時間だ。
しかたない、ジェームズたちと合流するのは2時限目からにして、それまでどこかで時間を潰そう。
そう考えてシリウスも寮を後にした。









朝食を食べ損ねていたことを思い出したシリウスは、何か食べ物を貰おうと厨房へと向かっていた。
禁じられた森の見える渡り廊下に差し掛かったところで、彼は何気なく外に目をやった。
森番であるハグリッドの巨体はここからでもよく見える。
今日も畑仕事や森の管理に忙しくしているようだ。


(……………ん?)


ふと、シリウスはハグリッドの横で動く小さな影を見つけた。
ずいぶん小柄でよく見えないが風に揺れるローブからしてどうやら生徒のようだ。
でもなぜ生徒がこんな時間にハグリッドの所に?
今は授業中のはずだ。
シリウスはぐっと目を凝らしその影の正体を見極めようとした。
しかしその顔を判別するにはあまりに距離が離れすぎている。


(…………)


シリウスは外を見るのをやめ、止まっていた歩みを再び動かした。
その足は次第に早足になりついには走り出した。

向かうはハグリッドの小屋。

そこにいるのが誰かはっきり分かったわけではないけれど、あの小さな影がなまえであるような気がしてならなかった。












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