ハリポタ

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「パーティー?」


あたしは朝食のクロワッサンにジャムを乗せながら聞き返した。
完成したジャムクロを頬張れば甘酸っぱいイチゴの味が口一杯に広がる。


「ええ、スラグホーン先生主催の。っていうかそれ甘すぎない?」

「甘くておいしいよー。」


ジャムたっぷりのクロワッサンをぺろりと平らげたあたしにリリーは眉をひそめた。
どちらかと言えば甘いもの好きな彼女だが、さすがにこれは無いと思っているらしい。


「スラグホーン先生のパーティーって言ったらアレだよね?スラグ・クラブ。」

「そうそれ。今回はかなりたくさんの生徒に声をかけているんですって。」

「ふーん。」


魔法薬学担当兼スリザリン寮監のホラス・スラグホーン先生。
彼はしばしば気に入った生徒を集めてこう言った集まりを催している。
成績優秀なリリーも彼のお気に入りの一人なのだが、同じく成績優秀なジェームズやシリウスが入っていないあたり、あの先生の見る目の確かさが窺える。
リーマスは入ってもおかしくないけれど、良くも悪くも控え目な彼はそういう表立った場所にはあまり出ていきたがらない。
器用な彼のことだから、うまいことスラグホーン先生の目に留まらないようにしているのではないかと思う。


(多分、体質のこととかもあるんだろうなぁ……)

「でね、そのパーティーになまえも連れてきてくれないかって言われているの。」

「えっ?」


不意にリリーが突拍子もないことを言い出し、あたしは二つ目のクロワッサンを落としそうになった。
彼女の手には紫色のリボンの付いた封筒が二つ揺れている。
一つはリリー宛、もう一つにはあたしの名前が記されていた。


「わざわざリリーに頼まなくてもフクロウに持ってこさせればいいのに。」


封筒を受け取りながらあたしはぼやいた。


「“フクロウよりも君から受け取った方が、彼女も来る気になりやすいだろう”って言ってたわ。」

「……あの先生ってホント人のそういうとこ見抜くの上手いよね。」


確かにフクロウからなら、封も切らずに放置かそのまま受け取りもせずに飼い主の元へUターンさせていただろう。
でも相手がリリーならそういうわけにもいかない。
とりあえず目を通すだけ通しておくか、と封を切った。


「今度の金曜日か…リリーは行くの?」


「うーん、そうね。別に断る理由も無いし……一緒に行かない?意外と面白いわよ。普段話す機会の無い人と話せたりして。」

「んー…」


せっかくリリーがそう言ってくれているのだから行きたい、とは思う。
思うけど、なんか気が進まないなぁ……

あたしは初めてスラグホーン先生に会った時から、なんとなく彼に苦手意識を持っていた。
はっきりとした理由は分からないけど、多分、根本的に合わないんじゃないかと思う。
ロクに話したこともないけど。


「まぁ、出欠の返事が必要なわけでもないし、当日までに考えておいてくれればいいわ。」


そう言ってリリーは残っていたカボチャジュースを飲み干し、カバンをしょって席を立った。


「あれ?どこ行くの?」

「マクゴナガル先生のとこ。質問があるから。」


その返答にあたしは思わず感心した。
ついさっきの授業で彼女が見事に枕をウサギに変えるところを見たばかりだ。


「リリー変身学得意じゃん!それなのに更に質問!?ホント熱心だな〜。」

「変身術に関する法律で気になることがあるのよ。じゃあ、行くわね。」

「ん。行ってらっしゃーい。」

「スラグホーン先生の件、考えといてね。」

「はーい。」


あたしはひらひらと手を振ってリリーを見送った。
本当にリリーは勉強熱心だ。
スラグホーン先生が優秀な生徒だと手放しで褒めるのも当然だろう。

あたしは紫のリボンが付いた封筒をもう一度手に取ってみた。


(スラグ・クラブ、かぁ………)


まぁ、まだ時間はあるしゆっくり考えればいいか。

あたしは封筒を適当にカバンに突っ込んで食堂を後にした。





******





中庭のあたりに来ると冷たい風が吹いてきた。
もう11月も半分を過ぎた。
いい加減冬支度をしないとカゼひいちゃうな。

そんなことを考えていたら、行く先に見覚えのある後姿を見つけた。
ちょうど日陰になってる所にいるから暗くてよく見えないけど、あのちょっとウェーブした黒髪は多分…


「セブルス!」

「………なまえか。」


やっぱり、セブルスだった。
呼ばれて振り返った彼はあたしだと分かると面倒くさそうに顔をしかめた。
しかしそんなことはこの際気にしない。
セブルスと会話するときは、そんなこといちいち怒ってたら結局会話らしい会話ができずに終わってしまうのだということをあたしは知っている。


「久しぶりだねー、最近見なかったけど何してたの?」

「何って…試験期間だったんだから勉強していたに決まっているだろう。」

「あー…試験……そんなこともあったねぇ。うん、あったあった。」

「……ちゃんと受けてたのか?試験。」


試験の単語にあたしは遠い目をして適当に相槌を打った。
そう、実はつい最近までホグワーツはテスト期間の真っ最中だった。
もちろんあたしも形だけは一応受けた。
うん、形だけは。


「まったくお前という奴は……ルシウス先輩が愚痴を溢すのも頷けるな。」

「え?ルシウスと仲良いの?」

「ああ。同じ寮だし、何かと良くしてもらっている。」

「へー、セブルスでも他人と仲良くするなんてことあるんだ。」

「………ケンカを売っているなら買うぞ。」

「やっだ。冗談だってばセブルスったら!」


ポンと肩を叩けばセブルスは諦めたようなため息をついた。
まったくもう、冗談の通じないやつだな。


「で?ルシウスは何て?」

「誰が言うか。そんな告げ口みたいなこと。」

「むぅ、それもそうか。じゃあ自分で聞くからいいや。セブルスの数少ない他人との交流を奪っちゃ悪いしね。」

「まだ言うかお前は……」

「悔しかったらもっと人との関わりを大事にしなさいな。ほれ、蛙チョコあげるから機嫌直して!」

「いらん。」


そう言ってあたしはセブルスのカバンにムリヤリ蛙チョコの包みをねじ込もうと手を伸ばした。

セブルスはスリザリンの生徒とはそれなりに付き合っているようだけど、その他とは全く交流をもとうとしない。
それ故に考え方が偏りすぎているところがあるように思う。
せっかく学校という多種多様な人間の集まる場所にいるのだから、もっと視野を広げればいいのに。

そうすれば、一時的とはいえ、闇の陣営に身をおくこともないかもしれない……


「あ、これって……」


蛙チョコをつっこもうとした鞄の中に見覚えのある封筒を見つけた。


「あーもう分かった、もらってやるから!人の鞄を覗くな。」

「セブルスもスラグ・クラブ呼ばれてるんだ。」

「ん?ああ。………もってことは、まさか………」

「あたしも呼ばれちゃった。」


ポケットから封筒を出して見せると、セブルスは露骨にイヤそうな顔をした。
そんなにイヤがらなくてもいいのに……


「行くかどうかまだ迷ってるんだけど、セブルスは行くの?」

「行くが……お前のようなやつが呼ばれているというのが不可解だな。」

「ちょっとセブさんそれどういう意味ですか。」

「……………」


このヤロウ黙秘か。
しょうがない今のはスルーしといてやろう。
オトナだからね!

それにしても、セブルスがこういう集まりに顔を出すなんて意外だなぁ。
スラグ・クラブがどんなものなのかあんまり知らないけど、セブルスはパーティーとかそういう賑やかな場苦手かと思ってた。


(あ、そっか)


ふいに脳裏にリリーの顔がよぎった。
リリーは他に予定が無い限りスラグ・クラブに参加しているって言ってた。
つまりセブルスにとってはスラグ・クラブはジェームズたちに邪魔されずにリリーに会える希少なチャンスなんだ。


「……………おい、なんだその微妙な顔は。」

「やー、あたしは一途って良いと思うよ。」

「は?」


そうだよ、よく考えたらセブルスは小さい頃からリリーを想ってたんだ。
そして、大人になってからも……


「うぅ…ダメだ泣けてきた……」

「なんなんだ、気色悪いな……」

「よし、決めた!あたしもスラグ・クラブ行く!」

「勝手にしろ。」


セブルスは呆れたようにため息をついて言った。
なんと言われようとも行く!
行ってセブルスの恋を見守るんだ!

一人静かに燃えていたあたしは、近づいてくる人の足音に気付かなかった。


「これはこれは、珍しい組み合わせだな。」

「ルシウス先輩!」

「げ!ルシウス!?」


そのセブルスの声であたしは一気に我に返った。
振り向けばそこにはルシウスが立っていた。
気品すら漂わせてたたずむその姿はどこからどう見ても模範的な生徒。
あの横柄な態度も今はキレイに隠されている。


「なまえ、話がある。」

「へー……そう。」


あたしはふいとルシウスから目をそらした。
その様子にルシウスが怪訝そうに眉をひそめる。

ルシウスの顔を見るとホグズミートでのあの一件を思い出してしまう。
もっとも、本物のルシウスなんてあの時ルシウスに化けていた卿の表情の凄まじさには遠く及ばないけど。


「じゃあそれセブルスに話しといてよ。そしたらあたし後でセブルスに聞くから。」

「なんだその二度手間。」

「セブルス、悪いが外してくれるか。」

「あ、はい。」


セブルスは今までのあたしへの態度とは打って変わって素直にルシウスの言うことを聞き、呼び止めるまでもなく去っていった。

セブルスが声の聞こえない所まで離れたのを確認すると、ルシウスは厳しい目であたしを見た。
さっきまで完璧に被っていた優等生の仮面は早くも剥がれかけている。

ルシウスは目だけであたしについて来いと合図し、セブルスが行ったほうとは反対へ歩き出した。
あたしもしぶしぶその後を歩き出す。

はぁ、ばっくれたい。


「なに、話って。ホグズミートのこと?」


歩きながらあたしは多少つっけんどんな態度で話を切り出した。

ルシウスと話す時は歩きながらか人目につかないところで、というのがルールだ。
そうすれば会話を人に聞かれる心配が無いから。


「事の顛末は聞きました。本当に、貴女はとんでもないことしかしない。」

「ふん、なに言われたって屋敷には戻んないから。」

「……………」


手が微かに震える。
また、卿から伝言か何かだろうか。
ばれないように拳を強く握ったけれど、きっとルシウスは気付いているだろう。
そう思うと腹が立った。


「とりあえずはご安心ください。今日はそのことについてではありません。」

「……ふーん。」


あたしは内心ホッとしながら、さも興味が無いような返事をした。
もっとも、ルシウスはまだこの件について説教したりない様子だったけれど。


「最近、レイブンクローのカーティスと親しくしているとか。」

「それがなに。ルシウスには関係ないでしょ。」


あたしはぷいとそっぽを向いた。

これだからルシウスと話すのはイヤなんだ。
屋敷にいた頃はこんなのでも良い話し相手だったのに、学校来た途端にこの変わりようは何だろう。
あたしが言うこと聞かないからか、そうか。


「悪いことは言いません、あの男には近づかないでください。」

「悪いことは言わない、って…むしろルシウスが良いこと言ったためしがあったっけ?」

「茶化さないでくださいなまえ様。表向きは好青年に見えるかもしれませんが、ああ見えて不穏な噂も少なくはないのです。」


珍しくルシウスが余裕のない様子で言った。
普段の落ち着いた物腰の彼とは程遠いその様子に、あたしは多少怯みながらもその言葉を信用することはやはりできなかった。


「そ、そんなこと言って、ホントはあたしが学校生活満喫するのが面白くないだけなんでしょ!」

「なまえ様、私は真剣です。」


イライラがルシウスの言葉の端に滲み出る。
でもルシウスがあたしに言うことを聞かそうとすればするほど、あたしは頑なになる。

あたしはピタリと立ち止まった。


「話はそれだけ?それで終わりならあたしもう寮に帰るから!」


立ち止まるのはもうこれ以上話すことはないという意思表示。
いつもならルシウスもこれで諦めるのに、今日は引き下がらない。
どうしてもあたしの交友関係に口出ししたいようだ。


「お待ちくださいなまえ様!話はまだ終わっていません。」

「どうせまた卿の差し金なんでしょ。あたしはあたしの勝手にする。友達のことにまで口出さないで!」


止めるルシウスの声も聞かず、あたしは走ってその場を離れた。
まだ知り合って日は浅いけれど、友達を侮辱されたことが涙が出るほど悔しかった。

卿なんか嫌いだ。

やることなすこと逐一口出しして、あたしを束縛しようとする。
そしてあたしはその束縛から完全には逃れられないでいる。

せっかくあの屋敷から逃げ出して卿の元から離れたのに、自由になれたと思ったのに。


涙が零れ落ちないように下唇を噛んだ。

ままならないこの身がただ歯がゆかった。






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