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ステファンが死んだ。


ステファンと言うのは親父の犬。
白ひげ海賊団の愛すべきマスコット。
俺たちの数少ない癒しの一つだった。

そう、だった。過去形。

親父の投げたブーメランを嬉しそうに追いかけていたステファンは、もうどこにもいない。

寿命だった。
親父は「仕方ねぇさ、ヤツはよく長生きした。」なんて笑ってたけど、やっぱりどこか寂しそうだった。
他の奴らもそうだ。
そしておれもそう。寂しい。
ステファンのいなくなった船はいつもより少し静かな気がする。
おれは船の縁に凭れて海を眺めため息をついた。


「はぁ………」

「なーにしょげてんだよい。」


すると後ろから少々強めに肩を叩かれた。
振り返れば特徴的なパイナップル頭。マルコだ。


「隊長がいつまでもそんなんじゃ他の奴らに示しがつかねえだろうがよい。」

「そうは言ってもよ………」

「は、重症だな。」


マルコはやれやれと笑っておれの隣に背を預けた。


「マルコは寂しくねぇのかよ。」

「寂しくねぇわけないだろよぃ。だが落ち込んでばっかいてもしょうがねえだろぃ。寿命だったんだ。ステファンは大往生だったじゃねえか。」

「そうだけどよ……」


頭では分かってるがやっぱ寂しいもんは寂しい。
おれはもう一度ため息をついた。


「ほらシャキっとしろぃ。お前がそんなんじゃステファンも安心して眠れねぇよぃ。」

「ん……そうだな…。」

「もうすぐ島に着く。準備しとけ。」

「ああ。」



*******



「めし食ってくる!」

「おう、食い逃げはすんなよ!」


今日の船番のサッチにそう告げておれは船を飛び降りた。
しばらく道沿いにあるくと小さな村に着いた。
のどかで平和そうな村だ。

さて飯屋はどこだ。商店街らしい通りでキョロキョロと辺りを探ると、視界の端に奇妙な物がよぎった。


「………ん?」


おれはそれがなんとなく気になってそれが今入っていったらしい狭い路地を覗き込んだ。
すると木箱の横にはみ出した太い尻尾が見えた。
動物だ。


「…………おい、お前何だ?犬か?」


おれは木箱にそっと近づきながら声をかけた。
動物に話しかけるなんて可笑しいかもしれないが、ステファンにもよくこんな風に話しかけていた。
できるだけ相手を刺激しないようにゆっくりと木箱の後ろを除き込んだ。


「がっ!」

「わっ!」


その動物はおれの姿が見えると身を低くして威嚇してきた。
幼獣特有の大きな瞳に子供ながら立派な牙。
小さな体で精一杯おれに威嚇するそいつをおれは一目で気に入った。


「かっ……わいいなお前………!!」

「がっ!がぁっ!!」


じりじりと近寄るおれに負けじとそいつは小さな牙を剥く。
やべぇマジでかわいい。
間違ってしっぽの先を燃やしちまった時のステファンの反応にそっくりだ。
そういえば大きさもステファンと同じくらいだな。

っていうかこいつは何の動物だ?
猫っぽいけどそれにしちゃでかい………じゃあ犬か?

おれはそいつを抱き上げるべく両手を伸ばした。
そいつは驚いて逃げようとしたが後ろの壁に阻まれ呆気なく捕まってしまった。
お、意外とずっしりしてるな。

諦めたのかキョトンとして大人しく持ち上げられてるそいつを見て、おれはどうしようもなく愛しさが込み上げてきた。
こうしてるとステファンを思い出すなぁ………


(よし、決めた!)





おれこいつ飼う!


(ところでお前犬種は何だ?ゴールデンレトリバーか?)

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