OPlong
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しまった。やっちゃった。
今日は朝から少し体調が悪かった。
だからホントは家で大人しくしていたほうがよかったんだけど、どうしても今日入荷される本が買いに行きたくて、ちょっとだけならと思い外出した。
それが悪かった。
案の定、目的を果たす前に熱が出てきてぐらりと眩暈がしたかと思えば、気がついたときにはもうあたしは人間ではなくなっていた。
太い足に太い尻尾、黄褐色の毛皮に額には黒い斑点。
それは完璧に子ライオンの姿だ。
こうなると誰かに見られる前にすばやく家に帰らなきゃならない。
落としてしまった荷物や服はこの姿じゃ運べないから一先ず隠して後で取りに来よう。
あたしは辺りを確認すると一目散に走り出した。
……やっちゃった。本日2回目の大失敗。
数メートルも進まないうちにあたしは男の人に見つかってしまった。
必死の威嚇も全く効果が無い。
男はあたしを抱えると目を輝かせて走り出した。
あたしは必死になってその腕から逃れようと噛んだり引っ掻いたりしたけれど、大して力もないあたしの攻撃は全て無駄に終わった。
この人体温高い。熱い。
それに脇に抱えたまま乱暴に走るから、振り回されて気持ち悪い。
吐きたくなるのを我慢しながらあたしはお母さんの言いつけを守らなかった自分を呪った。
この姿になったら回りに充分過ぎるほど注意するようにって言われてたのに!
それ以前に体調悪いときは外出するなって言われてたのに!
あまりの気持ち悪さに意識が朦朧とし始めた頃、風に混じって潮の匂いがした。
「おーい、マルコー!」
男は誰かに向かって手を振った。
やっと揺れが収まってきて、あたしはとりあえず一安心した。
のろのろと顔を上げればいつのまにかここは村の外れの岬だった。
海には大きなクジラ……じゃなくて大きな船が浮かんでる。
男がもう一度船に向かって「マルコーいねぇのかー!?」と呼び掛けると、船の上からパイナップルみたいな頭の人が顔を覗かせた。
「おう、エース。お前めし食いにいってたんじゃねえのかよぃ。」
「んなことより見てくれ!犬拾ったんだ!」
「……………は?」
男は満面の笑みで、船から降りてきたパイナップルさんにあたしを突き出した。
「まだ子犬みてぇだけど、ボールペンレトリバーってやつだろ?」
「それを言うならゴールデンレトリバーだよぃ。」
え、いやあたし犬じゃないんですけど………
「見ろよこの足の太さ!将来でかくなるぞ。でも今のサイズもステファンみたいでかわいいよな。」
ステファンて誰。
「おれこいつ飼いたい!」
「ダメだ。元の場所に返してこい。」
「えええーっ!なんでだよぉ!」
パイナップルさんにバッサリ切り捨てられ男は不満を顕に抗議の声を上げた。
なんとか説得を試みてはいるが、パイナップルさんは頑として譲らない。
いいぞパイナップルさん!その調子であたしを帰らせて!
「お前ちゃんと責任もって世話できるのかよぃ。毎日エサやってサンポしてフンの始末もして。たまには風呂にも入れてやんなきゃなんねえんだぞ?」
「バカにすんなよ、そんくらいできる!なぁ頼むよマルコ!このとーり!」
男はあたしを脇に抱えたままパンと両手を合わせ拝むように頭を下げた。
パイナップルさんはしばらく黙ってその様子を見ていたが、やがて諦めたようにため息をついて頭を掻いた。
「とりあえずおれじゃなくて親父に許可をとってくるんだなぃ。」
「……………!ありがとうマルコ!」
男は心底嬉しそうにパイナップルさんにお礼を言って、今度は船のほうへと走り出した。
ちょっと待って、許可が出たらあたしどうなっちゃうの!?
「………っていうかありゃどう見ても犬じゃねぇだろよぃ。」
ひとり取り残されたパイナップルさんが今更ながらそう呟いた。
どっちにしろ同じ肉食動物
(パイナップルさん、それ言うの遅い!)