OPlong
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「走るぞステファニー!」
船から降りると男はあたしを繋いだリードを持って嬉しそうに走り出した。
もちろんあたしは走る気なんか無いからダラダラと歩いていたんだけど、男がこっちのペースなんかまるで無視してリードを引っ張るもんだから、あたしは2、3度転んで首が絞まった後諦めて男に合わせて走ることにした。
人間の姿の時は走ったりなんかしたらすぐに息切れしてしまうけど、この姿の時は平気。
しかしそれは飽くまで通常時の話だ。
今日のあたしは具合が悪い。
キラキラ光る飛沫を跳ね上げながら波打ち際を笑顔で走る男とは逆に、あたしはどんどん限界崖っぷちへと迫っていった。
(も、ムリ………!)
あたしはよろよろと砂浜に倒れ込んだ。
30センチほどあたしを引きずってから男もやっと止まる。
「……ん?なんだよステファニー、もうへばったのか?」
うるさい…こっちは病弱で体力ないの……!
男はあたしを起こそうとクイクイとリードを引いた。
首にかかる負荷が余計にあたしの体力を奪う。
分かった。この男、子犬とか遊ばせ過ぎて死なせちゃうタイプだ。
子犬の体力の無さとか考えてないタイプだ。
頼むから今はゆっくり寝かせて…!体力を回復させて…!
そう切に願った時、誰かの声が頭上に降ってきた。
「動物虐待だよぃ。」
落ち着きのある大人の声。
あたしはその時、神の存在を信じた。
「違ぇよ。遊んでやってんだ。」
「そいつもうぐったりしてんじゃねぇか。お前の体力に合わせてたらどんな動物だって持たねえよぃ。今日はもう休ませてやれ。」
救世主はパイナップルさんだった。
パイナップルさんはひょいとあたしを抱き上げると首輪からリードを外してくれた。
だらんと垂れたそれを男がつまらなさそうに纏める。
「情けないなステファニー……でも心配すんな。おれの子になったからには強い犬に育ててやるからな!」
「………あんまりスパルタにするとマジで死んじまうよぃ。」
「ぎゃう。」
あたしはパイナップルさんに賛成の意を込めて一声鳴いた。
別に強くなんかなりたくないもん。
今のままで困ることなんて無いんだから。
パイナップルさんに抱かれたままあたしは船へと戻された。
唯一の常識人
(パイナップルさんは味方だ。)