OPlong

□06
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意識が戻ると何故かあたしはずぶ濡れで体から安いシャンプーの香りがして、男がタオルを広げて立っていた。
お、起きたか、なんて嬉しそうに笑う男の顔を見て全てを察したと同時に、男の広げたタオルにくるまれた。


「気持ちいいか?ステファニー。」

いたたたたたた!
気持ちいいわけないでしょ!もっと優しく拭いてよ!


男はガシガシと乱暴にあたしの体を拭いた。
男の手に合わせてあたしは右へ左へ振り回されるように動く。
逃げようにもがっちりホールドされてそれは叶わない。


「あ、そういやお前メスだったんだな。」


………へ?


「威勢がいいからオスかと思ってたけど、付いてなくてビックリした。」


な……な………っ!!!
ど、どこ見てんのこの人おおおおぉぉ!!!!!


あたしはショックでもはや動く気力も失くしてしまった。
そうだよね、シャンプーされたってことは当然体の隅々まで見られたって事……だよね………
あたしは恥ずかしさのあまり頭を抱えて蹲った。
そうしている間にも男はあたしの体に残った水分をタオルで拭いていく。

うう……もうお嫁に行けない………


「………ん?どうした?急に大人しくなっちまって。」


誰のせいよ!








結局逃げ出すチャンスを掴めないまま、あたしは海賊船の上で夜を迎えてしまった。
騒がしい食堂でまた何か分かんない肉を食べさせられそうになったり、食事中にいきなり寝ちゃう男にビビッたり…あ、パイナップルさんがこっそりクッキーをくれたのは嬉しかった。
なんだかんだで男の自室へ連れて帰られる頃にはもう精神的にも限界だった。


「…………これでよし。」


部屋に戻ると男はどこからか持ってきたバスケットに古いバスタオルを2、3枚敷いて満足そうに頷いた。
まさかとは思うけど、それあたしの寝床ですか。


「できたぞステファニー。お前のベッドだ。」


やっぱり。


「今日からここで寝るんだぞ。」


男はあたしを抱き上げると、作ったばかりのベッドの上に下ろした。
仕方無しにあたしは前足でちょっとタオルを整え、男に背を向けて丸くなる。
すると、何が嬉しかったのか男はあたしの頭をわしわしと撫でた。


「ステファニーはお利口だな!さすがおれの子だ!」


だれがあなたの子ですか!


「おやすみステファニー、よく寝ろよ。」


そう言って男は明かりを消して自分のベッドに潜り込んだ。
数秒後にはもう規則正しい寝息が聞こえてくる。
夕食のときも思ったけど、寝つきいいなぁ、この人。

あたしはそっと起き上がった。
なるべく音を立てないように男の作ったベッドから降り、忍び足でドアへと近づく。
そう、海賊たちが寝静まった今なら、きっと簡単に逃げることができるはず!

あたしは目の前に立ちはだかるドアを睨んだ。
そびえ立つ木製ドアの真ん中あたりに堂々と構えるドアノブ。
あれを捻ることさえできればあたしは自由の身だ。
あたしは後ろ足で立って前足をドアノブに伸ばした。
しかし、あとちょっとのところで届かない。
ふん!ふん!とドアノブに向かって果敢に勝負を挑んでいるうちにあたしはバランスを崩してころんと後ろへ転がった。

がたん!

その時、うしろにあった何かにぶつかりあたしはけして小さくはない音をたててしまった。
さっと血の気が引きあたしは息を殺してゆっくり男の眠るベッドを見る。
布団はあいかわらず男の呼吸に合わせて上下に規則正しく動いている。
よかった、起こさなかったみたいだ。

あたしはほっと胸をなでおろしドアノブに再挑戦を試みた。
再び後ろ足で立ち上がり前足を精一杯伸ばす。
もうちょっと、もうちょっとなのに……!
音をたてないように慎重にやることに痺れを切らしたあたしは自然とジャンプを始めた。
それでも最初は音を気にして控えめに。
そして次第に大きく。
ぴょんぴょんと飛べば前足がドアノブに掠るようになってきた。

よし、もう一息!

もうちょっと高く跳べば確実に手が届く!
自由を目の前にしてあたしは完全に背後への注意を怠っていた。
四足をバネのようにぐっと縮こまらせて尻尾を揺らしてタイミングを計る。

いまだ!

あたしはびょんと高く跳んだ。
そして今まさにドアノブに前足が掛かろうとしたその時、あたしの体は空中で停止した。


「なにしてんだステファニー。」


ギギギ…とサビた歯車のように首を後ろへ回せば、睡眠を妨害され機嫌悪そうな男の顔があった。
あたしが空中で止まったのはジャンプしたところを男にキャッチされたからだった。


「遊ぶのはまた明日だ。もう寝ろ。」


いやー!もう帰るの!


「ぎゃう!ぎゃあう!」

「………しょうがねぇなぁ…わかった、わかったよ……」


え!帰らせてくれるの?!


あたしの気持ちが伝わったのかと期待を込めて男を見上げると、男はしっかりとあたしを抱えなおし、そのままドアに背を向けた。

あれ?そっちはベッドですよおにいさん?

予想外の展開に目を丸くするあたしをよそに、男はあたしを抱えたまま再びベッドへと潜り込んだ。


ん?


「これで寂しくないだろ?」


え??


「お前が一人で眠れるようになるまで添い寝してやるから、安心しろよ。」


あっれええええぇぇぇ??!!


違う違う違うそうじゃないって!
あたしはなんとか男の腕から逃れようとしたが、早くも眠りに就いてしまった男はびくともしない。

お風呂に入れられるだけじゃなく、いっしょの布団で寝ることにまでなるなんて………


お父さん、お母さん、あたしやっぱりもうお嫁には行けそうにありません…………


背中から直に伝わる男の体温にドギマギしながら、あたしは眠れぬ夜を過ごすのだった。






間違った愛情の注ぎ方

(おうち帰りたいよぅ………)
(ぐがーーーーー)

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