OPlong

□07
1ページ/1ページ



それはほんの一瞬の隙スキで、あたしがそこを突けたのはほとんど奇跡に近かった。
というか、奇跡そのものだった。


「こらステファニー!待て!!」


待たない!待ってたまるもんですか!


あたしは葉っぱや枝で体が引っかかれるのも構わず家へと無我夢中で走った。
男も同様に木々に遮られながらあたしを追ってくる。
もう少し、もう少し……
家まで逃げ切ればこっちのものだ。





夕べは結局男に抱き枕にされて寝苦しくてしょうがなかった。
おかげで寝不足で頭が痛い。
そんなことお構い無しに朝から上機嫌な男の声にたたき起こされ、朝ごはんの前にサンポに行くぞ!とまた脇に抱えられ海岸に下ろされた。

この時だった。
あたしは首輪にリードが付いていないことに気付いた。

男を見上げればポケットからリードを取り出すところで、あたしが大人しいことに油断しているのだと分かった。
それからは考えるよりも早く体が動いてて、そして今に至る。

男はいきなり走り出したあたしに驚いていたが、すぐに追いかけてきた。
しかし今のあたしは子供とはいえライオン。
けして足の早い動物でもないしスタミナもないけれど、人間に負けるような脚じゃない。
それでもさすが海賊と言うべきか、男はあたしの姿を見失うことなくついてきた。


「ステファニーっ!」

し、しつこい………っ!



あたしの息も切れてきた頃、やっと町外れにあるあたしの家が見えてきた。
あたしは最後の力を振り絞ってラストスパートをかけ、玄関のキャットドアに滑り込んだ。


「あ!何してんだよステファニー!人んちだぞ!?」

あたしんちだっての!


ドアの外で叫ぶ男に心の中で突っ込みを入れながら、あたしは一日ぶりに人間の姿に戻った。
一息つく間もなく男がドアを激しくノックする。
あたしは慌ててクローゼットの中から服を引っ張り出した。
着るのが簡単なワンピースを選んで頭から被るその間にも男はドアをノック…というよりぶち破りそうな勢いで叩いている。


「ごめんくださーい!」

「は、はーい。」


あたしはどうにか平静を装ってドアをほんの少しだけ開けた。


「どちらさま…ですか……」

「あ、どうも。突然すいません。この家に子犬が入ってこなかったか?」

「い、いえ、入ってきてませんよ………」


内心のドキドキを悟られないようにあたしはドアに身を隠すようにしながら応対した。
男はおかしーなーと頭を掻いて眉をひそめた。
早く諦めてどっかいって……!
ドアを握る手に自然と力が入る。

ふと、男は何かに気づいたように軽く目を見開き、あたしの顔を……いや、首元をじっと凝視した。
その視線が居心地悪くてあたしは限界までドアに身を隠した。


「あの……何か………?」

「………ステファニー?」

「!?」


サッと血の気が引いて寒気がした。
ば、バレた!?何で!?
男はあたしを見て確かにステファニーと呟いた。


「す、すいません私っ……忙しいので………!」

「あ、ちょ、待った!」

「ひゃああぁ!」


慌てて閉めようとしたドアの隙間に男はまるで押し売りのように足を入れてそれを阻んだ。
男がドアを引くとあたしはいとも簡単に力負けし、あっという間に外に転がり出てしまった。
バランスを崩し倒れそうになったあたしはポスンと男に受け止められた。
ホッとしたのもつかの間、男はあたしの肩を乱暴に掴んで向かい合った。


「やっぱりそうだ。お前ステファニーだろ?」

「な、何のこと言ってるのか、さっぱりわかんないですっ!」

「その首輪、おれがステファニーに着けてやったやつとおんなじ。」

「!!!」


しまった!首輪外すの忘れてた!

慌ててバッと首を隠したがもう遅い。
ニィッと無邪気に笑う男の顔を見て、逆にあたしは顔を真っ青にした。


「ち、ちちちちち違います!あたしステファニーなんて名前じゃありません!ネコネコの実なんて食べてないしライオンに変身したりなんかできませんっ!!!!」

「そうか、能力者だったのか!」

「いやあああ〜!?」


テンパったあたしは有ろうことかべらべらと余計なことまで洗いざらい全部喋ってしまった。
男は目を輝かせてあたしを見てる。
良い金づるが手に入ったとか思ってるんだろうか。


「あ、あたしなんか売ったって二束三文にもなんないですよ……!」

「あ?いや別に売る気なんか全然……ってうわ!?何で泣いてんだよ!!」

「う、うぁぁ〜。玉乗りとかもできないから見世物にもなんないですよ〜〜」

「だから売らねーって!おい、泣くなよ。」

「うわあーん!」


とうとうあたしは大声を上げて泣き出した。
神様、一体あたしが何したって言うんですか?
こんな仕打ち酷すぎます。
売られてどこかで野垂死んだら、まずは神様相手に訴訟を起こしてやるんだから。


「とりあえず落ち着けって……ほら、家ん中入れ。」

「ううっ……ぐすっ………」


あたしは男に促されるままに家に入った。
なんか招かれたみたいな流れになってるけど、あたしんちだってば、ここ。

今から荷造りとかさせられるんだろうか。
あたしの頭の中でこないだ読んだ冒険物語での海賊の台詞がよみがえった。

40秒で支度しな!この家にはもう戻ってこられないからね!



せめて2時間はください

(40秒じゃ短すぎます………)

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ