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なまえの依頼を受けたカロルとユーリは、なまえと共に帝都に向かっていた。
目的はなまえを最初に保護した騎士に会うこと。
そしてフレンに預けているラピードを迎えに行くことだ。

「帝都か。一度行ったことがあるけど、あそこはなかなか楽しい所ね。」

「なんだ、行ったことあるのか。」

「ええ。今の目的と同じく、例のセミの羽の騎士に会うためにね。まぁ門前で追い返されたて会えなかったんだけど。」

「だから、セミって言うなよ…」

なまえの物言いにユーリはげんなりした。

「ユーリも前はあの格好してたんだよね?」

「え!?何あんた騎士だったの?やだ、帝国の人間じゃない。」

「元、だよ。今はギルドの人間だ…ってコラ逃げようとすんな。」

騎士と聞くや否や逃げようとするなまえの首根っこをユーリが捕まえた。
変な所ですばしっこいというか潔いというか、とにかくなまえと付き合うのは骨が折れる。
今でこそやっとデイドン砦にまで来たものの、ここに至るまで何度なまえを見失ったか分からない。
考えが行動に直結しているのだろう。
気になるものがあればふらふらと行ってしまうし、危険と思えばさっさと逃げてしまう。

「おまえのその自由さはどうにかなんないのか。」

「騎士の話なんて聞こえないしー。」

「も・と・だっつーの!話を聞け!」

以降も、やれキノコパウダーだのチーグルの毛だの、目を離した隙にいなくなるなまえを繋ぎとめながら、一行はどうにか帝都に辿りついた。

まず目指すはザーフィアス城。
フレンもそこにいるはずだ。

「城に入れるの?」

「ああ、勝手口からな。」

「勝手口?城にそんなのが?」

そう言うとユーリは城門をスルーし、そのままとある貴族の庭に入って行った。
カロルも当然のようにそれに着いていくが、なまえはさすがに不法侵入ではないのかとあたりの目を気にしている。

「知り合いがいるなら正面から堂々と行けばいいじゃないの!」

「俺ら見たいのが堂々と出入りしてたら迷惑だろうが。」

「……ああ、確かに。縄つけられてたらしっくりくるけど。」

悪人面だもんね、となまえは付け加えた。
ユーリはあとで絞めようと心に誓いながら庭の石像を押した。
ゴリゴリと石同士の擦れる音と共に地下通路への入り口が現れる。

「わ。すごい!隠し通路?」

「よし、行くぞ。魔物もいるから気をつけろよ。」





城内に入れば、もはやユーリやカロルは顔なじみのように警備の騎士達に挨拶しながら奥へと進んでいった。
その様子をなまえは後ろから感心した様子で見ていた。

「はー、コネがあるってすごいわね。」

言いながらなまえはどこか落ち着かない様子であたりを見回し、そっと上着のフードを被った。

「ん?寒いのか?」

「いや別に。」

「?」

なまえの態度を疑問に思いながらも、ちょうどフレンの部屋の前に着いたのでユーリはそのドアをノックした。

「おーいフレン、いるかー?」

城には似つかわしくない粗暴な叩き方にカロルは顔をしかめたが、フレンはすぐに出てきた。
休憩中だったのだろうか、いつもの重い鎧は外して軽装だ。

「ユーリ!?珍しいな、君がドアから入ってくるなんて。」

「客がいるもんでな。ラピードはどうしてる?」

「ああ、ラピードなら今ここにいるよ。」

そう言ったフレンの足元かららピードが顔を出した。
フレンに預けて随分経つが、犬らしからぬ硬派な雰囲気はあいかわらずだ。

「お、ラピード。久しぶりだな。ガキはどうしてる?」

「母親の所にいるよ。みんなお母さんっ子でね。」

「そりゃ寂しいな。ラピード父さん?」

「ワフッ」

あの旅のあと、ひょんなことからラピードはある騎士団の犬と出逢い、ユーリが帝都にいる間はもっぱら騎士団の犬舎に忍び込んで会瀬を重ねていた。
犬舎の管理人もラピード程の優秀な犬なら是非にと申し出て、ラピードはしばしユーリと別れて騎士団に預けられることとなった。
そうしてラピードと騎士団犬の間に5匹の子犬が生まれた。

「あとで犬舎に見に行くといいよ。みんなラピードの子犬の頃にそっくりで…」

フレンの言葉はそこで止まった。
ユーリの肩越しに覗いてきたなまえと目が合ったからだ。
2人はお互い数秒見つめあった後、思い出したように息を呑んだ。

「「あの時の…!」」

「森にいた女の子!」

「セミみたいな騎士!」

「セミ?!」

「森ガールってガラじゃないんだけど。」

2人は同時にお互いを思い出し、そしてお互いの印象に突っ込みを入れた。
そんな2人を見ながらカロルとユーリは

「知り合い?」

「さあ…?」

2人で首をかしげていた。


******



「なまえを見つけたセミみたいな騎士って、お前のことだったのな。」

「確かになまえを保護したのは僕だけど…セミって何のことだい?」

「あの時の格好、羽化したてのセミみたいだったじゃない。」

「………」

なまえの歯に衣着せぬ物言いにフレンは返す言葉を見失った。
騎士になって随分経つが、今だかつて羽化したてのセミなんて言われたことはない。

「…でも君にこうしてまた会えて良かったよ。」

「やだあたし口説かれてる?」

「気を付けろ、そいつは天然だ。」

「まあ怖い。」

「話を脱線させないでくれよ…そうじゃなくて、あの後アスピオに移り住んだって聞いていたけど、うまくやっているか心配してたんだ。」

「移り住んだ?」

カロルが聞き返した。
なまえの話ではアスピオには住んでいたと言うより監禁されていたと言ったほうが正しい。
首をかしげるカロルとは対称的に、ユーリとなまえはなるほどなと肩を竦めた。

「そういうことになってたわけね。」

「恨むなよ。こいつも当時はまだ下っぱだったんだ。」

「え?どういうことだい?」

事情が飲み込めていないフレンにユーリがあらましを説明した。
そしてなまえの身に起こったことを把握すると、みるみる内に青ざめてなまえに向かって床に頭を擦り付ける勢いで土下座をした。

「本っっ当にすまない!君がそんな目にあっていたなんて露知らず!!」

「そうね、知っててあんな爽やかにご歓談かましてたんなら流石にぶん殴ってたとこだわ。」

「何と詫びればいいのか…!本当に申し訳ない!」

「貴方の言う申し訳ないって言うのは口だけかしら?大人なら誠意の見せ方くらい心得て…いたっ」

「おいあんま苛めんな。」

土下座するフレンを見下ろしながらどんどん楽しそうな顔になっていくなまえの頭をユーリが叩いた。

「いや、ユーリいいんだ。気のすむまで責めてくれ。言葉も通じない世界にたった一人、彼女がどれだけ辛かったかを思えば…」

「え?ちょっと待ってよフレン。言葉が通じないって?」

フレンの言葉をカロルが遮った。

「ああ、なまえは保護された当初、聞いたこともない言語を喋っていたんだ。当然僕らの言葉も通じないから、意思の疎通が困難だったんだよ。」

「そうなの?」

「あのね、全く接点の無いこの世界とあたしの世界で使ってる言語が一緒ってどんな奇跡よ。」

「あ、そっか。」

「でも今はぺらぺらじゃねーか。」

「…そりゃ覚えるわよ。そうしなきゃ生きていけないもの。」

少し、妙な間があったが、すぐになまえはいつもの調子を見せたので、ユーリは特に気に止めなかった。
なまえは椅子から降り、土下座を続けるフレンの前にしゃがんだ。

「顔あげてフレン。魔獣を退けて、意味の伝わらないあたしの話を丁寧に聞いて一生懸命理解しようとしてくれた貴方に、感謝こそすれ恨むなんてことしないわ。」

「いや、しかし…!」

「感謝してるって言ったのよ。助けてくれて、ありがとう。」

フレンはまだ自分が許せないといった顔をしていたが、なまえの言葉にようやく顔をあげた。

「感謝してるって態度だったか?フレンを見下ろしてるときのあの楽しそうな顔。」

「土下座してるフレンの頭を踏みかねない感じだったよね。」

「ありゃ生粋のドSだぜ。」

「うるさいわよ、そこ。」



******



一行はフレンからなまえを保護した詳しい場所を聞いて、一度そこへ行ってみることにした。
もちろん、ラピードも一緒だ。
フレンが女性にあんな危険な道を歩かせるのは賛成できないとユーリに小言を言ったため、今度は地下道ではなく正門から出ることにした。

「なまえのことを頼むよ、ユーリ。」

正門まで見送りにきたフレンが言った。
カロルとなまえはラピードにちょっかいを出しながら前を歩いていて、フレンとユーリが後ろで立ち止まっていることに気づいていない。

「ん?ああ、言われなくても。大事な依頼主だしな。」

「よく気を配ってやってくれ。今でこそ気丈に振る舞ってるが、最初の頃は…」

「フレン。」

フレンの言葉をなまえの凜とした声が遮った。

「ユーリ、何してんの。置いてくわよ。」

「…今行くよ。」

そう言ってユーリはなまえの横をすり抜け、先を行くカロルたちの方へと行った。
しかし、置いていくと言ったなまえ本人はそのあとを追わず、じっとフレンを見つめていた。

「お気遣いありがと。でもできるだけ人に弱いとこは知られたくないのよ。」

「弱いだなんて、そんなことは…」

「助けてくれたこと、ホントに感謝してるわ。…ずっとお礼を言いたかったの。」

そう言ってなまえはふわりと笑った。
その儚げな雰囲気にフレンはたまらない気持ちになり、下唇を噛む。

「なまえ…よしてくれ、僕にはお礼を言われる資格なんて……」

うつむいたフレンの頭をなまえの華奢な手がくしゃりと撫でた。
顔を上げればもうこれ以上自責の言葉など聞く気はないと言うように、なまえは離れていった。

「会えて良かったわ。元気でね。」

そう言って軽く手を振り、なまえは行ってしまった。

「……君も…」

フレンが呟いた言葉が彼女に届いたかは分からない。



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