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*aph イギリス







「イギリス、なにかお話して。」


日付が変わる数分前、俺の部屋を訪ねてきた少女は開口一番そう告げた。


「眠れないの、何かお話聞かせてよ。」


俺がなにも返事をしないでいると少女はもう一度言った。
言いたいことはいろいろあったが、それら全部をとりあえずは押し込めて「はぁ?」と返す。
すると少女は不満そうに唇を歪めた。


「ダメに決まってるだろ。さあ部屋に帰れ。」

「だって眠れないんだもん。」

「ベッドに入って目を閉じてればそのうち眠れるだろ。」

「やったけど、眠れないの!」


意外と強情なこの少女はちょっとやそっとじゃ折れやしない。
今までだって何度この頑固っぷりに頭を悩まされたことか…


「ねえ、イギリス。」

「あーうるさいな。それならアメリカかフランスんとこにでも行けばいいだろ。」

「だってイギリスのお話が一番好きなんだもん。」

「……………」


俺も自分ちの文学には自信があったから、これは悪い気がしなかった。
人の心の機微に敏感な彼女がそれを見逃すはずもなく、彼女はそのスキをついて部屋に滑り込んだ。


「じゃあおじゃましまー「だ……だーめーだ!話なら明日してやるから、な?」

「だから、今眠れないんだってば。」


慌ててその華奢な肩を掴んで止めれば、とうとう彼女は不機嫌そうに口を歪ませた。


「だからって年頃の娘がこんな時間に男の部屋に来るんじゃねーよ!襲われたらどうする気だ?」

すると彼女はきょとんと目を丸くした。
無防備なこいつのことだ、そんなこと考えてもいなかっただろう。
これで大人しく部屋へ…――


「イギリスはあたしを襲うの?」

「へ?………な、そんなことするわけないだろ!英国紳士だぞ、俺は!」

「なら問題ないじゃない。」

「あっ…こら!」


そしてついに彼女は俺より先に俺のベッドへと潜りこんでしまった。
すっぽりと布団に包まれ枕に頭を沈めると、早くと言わんばかりに俺を見上げてくる。

……結局、今日も俺はコイツにかなわないんだなぁ。


「ひとつだけだぞ。」

「へへ、ありがとイギリス。」


そう言ってへらりと笑えば、俺はもうさっきまでコイツを追い出したかったことも忘れてしまう。
俺は苦笑しながら彼女の頭をなでてやって、ベッドサイドのイスに腰掛けた。


そして極上の御伽噺を、君に。





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