hp2(ブック

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長く雪に閉ざされていたホグワーツにもようやく春の気配が訪れはじめた。
久しぶりに太陽を浴び立ち昇る土の匂いが、わけもなく心をはやらせる。冬のキンと冷えた静かな空気も嫌いじゃないけれど、それを乗り越えて迎える春が嬉しいのはきっと生物としての遺伝子で決まってるのだ。

だけど今あたしが息をきらして全力で走っているのは、決して春の陽気に浮かれてのことではなかった。

「…………っ!」
「きゃっ!び、びっくりした…どうしたの、なまえ?」

グリフィンドール寮の入り口に転がるように飛び込むと、たまたま談話室にいたリリーがあたしの尋常ならざる様子に気付いて、読んでいた本にしおりを挟んだ。リリーの姿を見ると抱えきれない気持ちが溢れるように、ぼろりと涙がこぼれた。それを見てリリーはますますぎょっとする。

「り、リリぃ〜…」
「え、えええ?どうしたの!?何があったのなまえ!」
「わかんない〜…」
「分かんないって…ああ、とりあえず部屋にいきましょ、ね?」
「ぐすっ…」

リリーはあたしの傍へ駆け寄って肩を抱いた。そうしてもらえばあたしはいつだって元気になれるのに、今日は頭がぐちゃぐちゃすぎて効果が薄い。
そしてあたしはぼたぼたと涙を溢しながら促されるままに女子寮への階段を上った。





「シリウスに告白された!?」
「ち、違う違う!告白じゃなくてっ…その、付き合ってほしいって言われただけで…!」
「それを告白と言わずして何て言うのよぉー!!」

ぼたぼた流れてた涙は案外すぐにおさまった。まるでゲリラ豪雨みたいなその涙に洗い流されたせいか、心は幾分か落ち着くには落ち着いたが今度は訳を聞いたリリーがあたし以上に興奮している。顔を紅潮させて、どうするのどうするのとあたしを急かすが、あたしもまだ冷静に物を考えられない程度には混乱しているのだ。

シリウスに告白された。

それを再確認するたびに顔がかーっと熱くなり、脳みそがぐるぐるめちゃくちゃに回って、叫びたいような走り出したいような妙な気持ちになってしまく。できれば今すぐ箒に跨がり、高速で地球を2、3周したい。
いやでも待て、あれは本当に告白なのか?そういやあたしは悲しいことに生まれてこの方告白なんかされたことがない。持てる知識と言えば漫画やドラマで得たもの程度。本物の告白なんて知らないのだ。そんなあたしがどうしてあれが告白だと分かる?そうだやっぱりあれは告白なんかじゃ無かったんだ。うんうん、あーよかった一安心。

「混乱しすぎよなまえ。心配しなくてもシリウスがしたのは間違いなく愛の告白だから、観念しなさい。」
「ほぎゃ!な、なにを…」
「あなた顔を見ればなに考えてるかまる分かるのよ!」

そう言ってリリーはあたしの肩を軽く小突いた。こうして彼女はトントントンと手際よく逃げ道を塞ぎ、あたしを今日起きた出来事に真っ正面から向きあわざるを得なくさせたのだった。

「さて、最初から聞きましょうか。一から十までぜーんぶよ!」

リリーはとても楽しそうだった。

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