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「余計なことを考えるな!全神経を杖に集中させろ!」
「貴様の耳は脳と連結しておらんのか?2秒前に言ったことをなぜ忘れられる!」
「集中しろと言ったのだ!誰が力めと言った!」
「息を吸って吐け!せめて卒業までに生物として最低限のことくらいはできるようになってほしいものだな!」
「力むなと言っただろう!脳の血管が切れてこれ以上阿呆になったらそれこそ目も当てられんぞ!」

「ええい違う!このうすらポンコツが!!!」

「もぉぉおぉうっさい!卿の教え方が悪い!全然分かんないもん!それでよく教師になろうと思ったな!?」

卿の理不尽な指導にブチ切れながら、それでも杖を叩き折らなかったことは賞賛に値すると思う。
何が力むな、だ。何が集中しろ、だ。
集中って何にだ!?
いつもは理詰めで人にネチネチと嫌味を言うくせに、卿の魔法の教え方は恐ろしく感覚的だった。
そういやこの人Vの発音を教える時も具体的な指導は「下唇を噛め」くらいで後はひたすら見て聞いて覚えろだったんだ。

「体内の魔力を杖を通して放つだけだろうが。こんな簡単なこと説明のしようも無いわ。」

「そうっすね。卿には呼吸するのと同じくらいにチョロいっすもんね。」

「そうだな、まともな呼吸すら危うい貴様には難しい話だったな。」

そう言って卿はさも憐れな生き物を見るような目であたしを見下し鼻で笑った。
今あたしに魔法が使えれば確実に何らかの呪いが杖から吹き出て卿に直撃していたことだろう。
哀しいかな、杖はウンともスンとも言わないのだけれど。

「いいか。貴様の魔力は元々俺様からの借り物だった。」

「死の呪文で殺し損ねただけのくせに、わざわざ恩着せがましく言いやがって…」

「黙れ。貴様これまで誰の情けで生かされたと思ってる。
とにかく、憐れなマグルであったお前も体内に魔力を長く留めていたことによって、体がそれに適応している。後は切欠さえあれば己自身で魔力を生み出すことも可能なはずだ。」

あたしは卿の話を聞きながら、今やただの棒っきれに等しくなってしまった杖を弄っていた。
その理屈はもう何度も聞かされた。ただその「切欠」をどうすれば掴めるのかがサッパリ分からないのだ。というか、本来ならその掴み方を指導するのがルディン先生の、つまり卿の役目じゃないのか。

「やっぱ教え方に問題が…」

「ほう?」

「やべっ」

それは極めて小さな呟きだったはずだが、自分の悪口に対してたいそう耳ざとい卿はしっかりと拾いなさった。
咄嗟に口を押さえても時すでに遅く、零した愚痴は回収不可能だ。
はい、死んだ。

「なるほど、つまり今のやり方はまだ手ぬるいと言いたいのだな。その向上心や良し。望み通り極上のレッスンを受けさせてやる。」

「いえいいです!あ、ほらもう時間だし!ルディン先生に残業させちゃ悪いし!!!」

「いらぬ心配だ。その分貴様の小遣いから差し引くだけのこと。」

「え、待って卿って時間給いくら…いや無理無理!ノーセンキュー!残業の押し売り良くない!!」

「嫌ならせめて1クヌート分ほどだけでも成長を見せることだな!」

そしてその日の特別授業は結局消灯ギリギリまで続いた。
もちろん成果などあるはずがない。
あれは授業でなくイジメだと訴訟も辞さない覚悟である。


*****


そんな感じで卿がホグワーツに就任して早2週間。
マクゴナガル先生の時は週2回だった特別授業は今や週5で行われている。
おかげであたしのプライベートな時間はほぼ潰され、呪文学のレポートをやる暇も無い。

「いやいやなまえ、君それはいつものことじゃないか。ルディン先生のせいにするのはお門違いってやつさ。」

「そうね。ちょっと可哀想だけど、どっちもあなたにとって大事なことなんだから頑張りましょ。ほら、レポートは手伝ってあげるわ。」

「うう…リリーが厳しくも優しい…ジェームズはメガネ割れろ…」

木曜日の図書室、あたしは卿の特別授業のせいで溜まりまくっている課題に埋もれ死にそうになっていた。
リリーは手伝ってくれているが、ジェームズは完全にリリー目当てでしかないので彼女の横でニコニコしながら座っているだけだ。

「魔力が戻れば僕のメガネだって簡単に割れるのにねぇ。」

「余裕ぶっこいてるとこ申しわけありませんが魔法がなくたってお前のメガネくらいいつでも割れるからな。」

「はいはいなまえ早く魔法使えるようになって、メガネはそれから割りましょうね。」

そう言ってあたしを優しく窘めたリリーの手は、しかしさりげなく遠ざけていた羊皮紙、羽根ペン、教科書諸々をあたしの手にしっかりと握り直させていた。
なんだちくしょう「産業革命における妖精の呪文の役割について」って。

「テーマがむずかしすぎるよぉ〜。こんなん授業じゃ、空気清浄化の呪文が発明されたってしか言ってなかったじゃーん!」

「ははっ、それは君が授業を聞いていなかっただけさ。」

「えっそんなバカな!ちゃんと聞いてたし!」

「残念だけどなまえ、つい先日の授業で言ってたわ。」

「えっ」

あたしはリリーとジェームズの顔を交互に見比べた。
2人とも無言で首を横にふる。
おいマジか。
あたしはそっと2人から目をそらし、のそのそとレポートに手をつけ始めた。

「まぁまぁ、元気出しなよなまえ!これが終われば週末はみんな大好き!君も大好き!ホグズミードの日じゃないか!!」

「ホグゥ!!!」

「ちょっとジェームズ!」

朗らかに告げられたジェームズの言葉は不意打ちであたしに強烈なボディブローをかましてきた。
何の悪気も無く言った風を装っているが、もちろんその腹の中は悪気に満ちていた。
こいつ絶対面白がってる。

今週末、ホグズミードへシリウスと行くことになっているのは、もはや仲間内にはバレバレだ。
あたしは力を無くしへにゃりと机に突っ伏した。

「ああ、ほら。大丈夫よなまえ、難しく考えないで。普通に楽しんで来ればいいのよ。」


リリーはそう慰めてくれたが、あたしの心はまだ晴れない。

付き合ってほしいと言われたあの日から、もう2週間経っている。
返事は急がずとも良いと言われたけれど、2人でホグズミードへ行こうとシリウスが誘った意図がまだ分からないほど鈍くはない。
だけどそれについて考えれば考えるほど、胃がキュッと縮こまり心臓が痛くなるのだ。

ふと、向こうの机で本を読んでいたレイブンクローの女子生徒がこちらを見ているのが目に入った。
それは決して好意的な目ではなく、むしろ憎いと語っている。
それはこの2週間であたしがよく向けられるようになった目だった。

「…新任教師とイケメン男子生徒二人を独占。ホグワーツ中の女生徒の羨望の的だね。」

同じく女生徒に気付いたジェームズがこそりと耳打ちした。

「…嫉妬の間違いでしょ。」

あたしはそういってぷいと彼女から顔を背けた。
別に知らない人だし、関わらないし、あたしを知る人はちゃんと分かってくれてるし。
あんなの、気にはしてない。

だけど胸の中に何かモヤリとしたものを、あたしは感じていた。



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