輪廻転生

□涙を止める術さえ知らなくて
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どうか、神様。

次に生まれ変わったら。

どうか、どうかどうかどうか。


たとえ全てを失っても、









深い夢から醒めて、静かに目蓋を持ち上げたアスランは、ぼんやりと周囲を見渡した。
時刻は夜明け前。
またか、と静かな吐息を零し、頬を止めどなく流れ落ちる滴を無造作に腕で拭った。
もう、ずっとこの目覚めを繰り返して、繰り返して、同じ朝を迎える。
一睡もしなかった日を除いて、眠れば必ず同じ夢を見る。

──否、
同じ、なのだろうか。

きっと、そうであってそうではないのだと、アスランは思う。
多分、全く同じ夢を見ているわけではないのだ。
馬鹿げた話だ。どんな夢を見たか、内容の欠片すらいつだって記憶には残っていないのに、どうして同じだの同じではないだのと、そんなことを考えてしまうのか。
それでも、無視することの出来ない、なにかがあった。
始まりは恐らく、十五歳の春。記憶が定かなら、三月の始め頃だったと思う。
目が醒めると訳もなく涙が頬を伝っていて、その日からずっと、毎朝それを繰り返す。
夢の内容は朧気で、霧がかかったように不確かだった。
目が醒めるその瞬間まで、色鮮やかな明確さをもって、現実か夢かの区別がままならないほどに深く深く、心に身体に浸透している、そんな気がするのに。
現実に引き戻された途端に、記憶の断片すら残らない。
温かい夢のような、悲しい夢のような、幸せで、残酷で、大切で、そして苦しくなるほど愛しい、光の夢。
けれども、それは。本当に、夢なのだろうか。
内容どころか、夢の輪郭すら掴めずに、なに一つ覚えていないと言うのに、胸に残る狂おしいまでに切ない想いが、アスラン自身に訴えかける。

あれは、夢であって、夢ではないのだと。

胸に残る感情、残らない記憶。
思い出したい、思い出せない。

霧散してしまう、その刹那の瞬間までは、確かな輪郭をもってそこにあるのに。
夢から醒めれば、色を失い形を失い温度を失い世界が消える。

残るのは、ただ。

燻る想いと涙だけで。




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