『金色の姫君』

□『金色の姫君』
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2.金色の姫君




貴方に会わせたい子達がいるの、と母が少女のように浮き浮きと言い出したのは今朝の事だった。
唐突な母の言葉に、何が何だか分からぬままアスランは馬車に押し込まれ、辿り着いた屋敷がこのアスハ邸だ。
アスハ───オーブの五大貴族の内でも最も高位な一族。
その名を知らぬ者など、このオーブではいないだろう。隣国のプラントに住むアスランでさえ、その名の持つ威力を知っている。
高位貴族であるのに権力に驕らず、一般市民に慕われているアスハ家は支持率も高く、ともすれば王族よりも力を持っているかもしれない。
けれども、所詮アスランにとってはそれまでの事で。
ザラ家とて貴族ではあるが、だからと言って直接的な繋がりがあるわけではなく。
ただ、それなりの知識としてアスハの名を知っているだけだった。
だからこそ、目の前に差し出された急展開に流石のアスランも戸惑いを隠しきれなかった。


「これから紹介する子達はね、とっても可愛らしい双子ちゃんなの。カガリちゃんとキラ君って言ってね、二人とも凄く元気な良い子達で、私もまだ一度しか会った事がないのだけれど」

「いや、あの、母上……」

「ふふふ、人付き合いの苦手なあなたでもきっと仲良くなれると思うわ」

「母上、だから、あの、」

「あら?どうしたのアスラン。そんなに渋い顔をして」


どうした、は、こっちのセリフだとアスランは思う。
頬に手を添えて、疑問符を浮かばせる母に本日何度目かの問うような視線を向けて。
返ってきたきょとんとした視線にアスランは諦めたように肩を落とすと、母の後ろに佇む初対面である彼の方に助けを求めた。
なぜ母が、この人物と面識があるのか。
すると威厳ある面立ちの彼はアスランの視線を受け苦笑を漏らし、苦々しく口を開いた。


「先日、私の馬鹿娘と馬鹿息子が屋敷を抜け出し隣国のプラントに逃亡してくれてな……その時にあの子達を保護してくれたのが君の母上なのだよ。」

「……逃亡?」


ウズミの口から出てきた言葉に思わず耳を疑った。
聞き間違い、だろうか。由緒正しきアスハの跡継ぎが逃亡?
一体、どういった経緯でそんな事になったのか。
呆気に取られるアスランに、居たたまれない表情を浮かばせるウズミ。
今の今まで部屋の片隅でおおらかな笑みを浮かばせていた恰幅の良い女性までもが、人知れずため息を溢している。
どうやらこの話題は避けた方が良さそうだ。
そう思った矢先。けたたましい音と共に扉が開かれ、アスランは何事かと瞳を瞬かせながら視線を巡らせた。



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