『金色の姫君』

□『金色の姫君』
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1.金色の姫君



バチーンと言う音と共に走ったのは右頬への小さな痺れ。
鋭く細められた金色の瞳で思い切り睨まれて、くるりと背を向けた彼女は足取りも荒く出ていった。
思わず呆気に取られたアスランは、半ば無意識にほんのりと赤く腫れ上がった頬を右の手のひらで抑えた。


「今のはあなたが悪いわよ?」


残された一同が彼女の背を見送って、最初に落とされたのは溜め息混じりの母、レノアの言葉だった。
あまりの出来事に思考が追い付かずに、ただ瞳をぱちくりと瞬かせること数十秒。
ややあって事の次第に思い当たったアスランは決まり悪げに周囲に佇む者達を見回した。


「すまぬな、アスラン君。アレは少しばかり気性が荒いのだ」


嘆息しながら言葉を紡いだのは彼女の父であり、また、アスハ家当主でもあるウズミだ。
彼もまた何とも言えぬ複雑な表情を浮かべて、彼女の出ていった方角を見つめ一つ息を吐いた。


「いえ、彼女が怒るのも無理はないでしょう……こちらこそ、大変失礼を致しました」

「あら、ダメよアスラン。ちゃんと本人に謝らなきゃ。ほら、今からでも遅くは無いから追い掛けて謝ってきなさいな」


そう言う母の表情は、しかしどことなく楽しそうに笑みを称えていて、アスランは憮然と眉を潜めた。

(絶対に面白がっている……)

たしなめるように首を傾げる母は、明らかにこの現状を楽しんでいるように見える。
それに気付いてしまえば、母に対しての不満は募るが、元来この人はそう言う質なのだ。
元はと言えば、母の説明が足りなかったせいも十二分にあると言うのに。
おっとりと笑んでみせる母をアスランは恨めしげに見やり、次いでウズミに一礼を残して彼女を探すべく来賓室を後にした。



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